冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~

「どなたですか」
「答える必要ある?」

 ふん、と彼女は鼻で笑い、続けた。

「どんな気分? 愛されてもいないのに、彼の妻になるのは」

 喉の奥が詰まったかのように、うまく息ができない。
 唇を引き結んだ。

「いーい? 教えてあげる、彼が本当に愛しているのは──」

 そこまで言って、彼女は口を噤む。
 その視線の先を追うと、大会場の両開き戸が開いたところだった。

「──すまない、遅れた」

 半年ぶりに聞く心地よい低音。
 紋付袴姿の芳賀さんがゆったりと歩いてくる。

「会議が長引いて──ああなんだ、千鳥。来ていたのか」
「あたり前よ。直利さんの披露宴ですもの。今、奥様と歓談させていただいていたのよ。いろいろとご存じで、面白い方ね」

 いろいろと、に明らかなニュアンスを感じる。つまり「なにも知らない癖に」と言いたいのだ、彼女は。

 芳賀さんにはほかに女性がいるのだと、そう言わんばかりの口調だった。

 ……実際、そうなのかもしれない。

 彼がお見合いを受けたのは、なにか事情があって結ばれない「彼女」との関係を続けるための、カモフラージュなのかも。
 それこそ、目の前の「千鳥さん」がその相手なのかもしれなくて。

「またお話させてもらいたいわ」
「そうか」

 どうでもよさそうに芳賀さんは私を見る。──「あのとき」とは全然違う、なんの興味もない瞳で。

 それでも、私は知っている。

 彼は本当は、すごくすごく優しい人なんだって。

 初対面の「ウサギ」を慰めてくれるような、そんな人なんだって──。
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