冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
犯罪を犯した少年たちの受け皿の少なさ。あぶれた彼らは結局、暴力団にせよ半グレ組織にせよ、非合法な場所に身を寄せることとなる。新たな被害者を産み続けるだけだ。
ただ罰を受けさせ続けるだけでは、きっと変わらない。社会を、法を、枠組みから、根底から変えるしかない。
なら偉くなってやる。ただのいち検事としては成し得ないことを、成し遂げてやる。
官僚組織の中で生き抜くことを決めた瞬間だった。
結婚後の由卯奈との新居は、駅直結のタワーマンションの高層階だった。
単純に利便性とセキュリティを考慮すると、一番コストパフォーマンスに優れていたのだ。昨日、荷物の搬入に立ち会ったその部屋に帰るのは、今日が初めてだ。
だからといって、なにか感慨を抱いたりすることは特にないのだけれど。
エントランスには警備員が常駐している。
深夜だというのに、二重ロックの自動ドアをくぐり抜けた俺に立ち上がり、律儀に頭を下げてくる。一礼してからエレベーターに乗り込んだ。
暗証番号で部屋を開けると、ダイニングに電気がついていた。
「おかえりなさい」
今日妻になった女性、由卯奈が椅子から立ち上がる。質素な白いワンピースをさらりと着た彼女からは、振袖姿とも白無垢姿ともまた違う印象を受ける。
部屋に合う配色の、ガラスのダイニングテーブルに載っているのは──カレー? サラダとスープが添えられている。
「時間なくて、簡単ですけど。お夕飯まだですよね」
「……すまない、食べてきた」
まさか結婚式の後に夕食を作っているとは思ってもいなかった。仕事をしてきた俺が言うのもなんだけれど……。
さすがに謝らないのもどうかと思い、謝罪を口にする。由卯奈は軽く瞬きをすると、微かに笑った。
「いえ、すみません。勝手をしました」
「今後はどうした方がいい? 俺としては別段不必要だと思うが」
「お夕飯がですか?」
「ああ、手間だろ」
そう言うと、由卯奈は軽く眉を上げ口を開いた。
「いえ。ひとりぶんもふたりぶんも同じです。作ります」
その言い方に明らかな怒りの感情が透けて見えて、俺はほんの少し驚く。
怒りの理由が見当もつかなかった。
「俺と君は、相思相愛の夫婦というわけじゃない。そして、君に家政婦をしてもらうつもりもない」
「そういう問題じゃないんです、芳賀さん」
俺は彼女を見つめながら思う。この人は、子ウサギのような印象に反して、案外としっかりした人なのかもしれない。
「私たちは家族になりました。なので、助け合いたいです」
「……助け合う?」
「少なくとも、私の家族はそうでした」
そう言い切ってから、由卯奈は続ける。
「外食続きでは、栄養が偏ります。私、母が忙しかったので料理は小さい頃からやってました。それなりに作れるはずなので、任せてください」
気圧されるようにうなずく。
──うなずいて、しまった。