冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~

 由卯奈がホッとした表情を浮かべる。

「よかったです。できるときは一緒に食べましょう」
「……見合いのとき、言わなかったか? 干渉し合わないようにしよう、と」

 まさか俺と「普通」の婚姻関係を希望しているのか?
 訝しみながらそう再確認すると、由卯奈は「はあ」と少し気の抜けた返事を寄越してきた。

「君だって、俺との結婚は金銭目的だと聞いているが」

 金銭目的!と由卯奈は繰り返してから苦笑する。

「ご存じだったのですね。まあ、実際その通りではあるのですけれど」
「あるのか」

 まさか、素直に認めるとは思わなかった。拍子抜けした俺に、彼女は人なつこい笑みを浮かべ続けた。

「はあ。まあ、ええと……ところで、芳賀さん。家族と食事することは干渉に入るのですか? 思春期の子供じゃあるまいし」

 あきれたように言われ、口を噤む。
 五つも年下の女性に、いいように扱われている気がする。

「……それもそうか」
「アレルギーはありませんか?」
「特に」
「わかりました。それから、急にいらなくなったときなどは連絡をいただけると助かります。もったいないので」

 うなずくと、すっとスマホを差し出された。

「連絡先、教えてください」

 電話番号をタップして、自分のスマートフォンを鳴らす。そこに残った着信履歴に「妻」と入力して、保存した。

「ありがとうございました」

 由卯奈が微笑む。それからキッチンへ行き、ラップ片手に戻ってくるとカレーやサラダにそれをかける。

「明日はなにかアレンジしましょう。チーズはお好きですか」
「嫌いじゃない」
「ならたっぷりかけて焼きカレーもいいかな」

 由卯奈が笑いながら、皿を冷蔵庫にしまっていく。それからリビングのローテーブルの上にあった白い箱を持ってきた。

「従兄さん……直義さんからいただきました。わざわざ家まで届けてくださって……ティーカップとソーサーのセットでした。お返しはどうされますか」
「ああ、俺からしておく」

 返事をしつつ、少し直義にあきれた。本当に由卯奈を口説きに来たのか。
 おそらくは、近くのデパートかなにかでわざわざプレゼントを買って……見ればイギリスの陶器ブランドの名前が入っていた。

 彼女は、直義を家に上げたのだろうか?

 由卯奈の表情は、特にうしろめたさを抱えたものじゃない。
 あたり前だ。
 もし直義を上げていたとしても、……抱かれていたとしても。それは俺がかまわないと言ったことなのだから。

「また明日。おやすみなさい、芳賀さん」

 そう言って由卯奈は自分の部屋へスタスタと戻っていく。
 俺はスマートフォンのアドレス帳を開く。

 そこにある「妻」の番号を眺めながら、俺はこの人と生きていくのか、と今さらながらに考えた。
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