冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~

 彼に会うのは、朝だけ。
 朝はルーティンがあるらしいし、見送られたくはなさそうだから、私は彼の邪魔をしないように洗濯や別の部屋の掃除をしていた。
 ハウスキーパーさんは来てくれるけど、まあ、そこはそれ。

 でも最近、直利さんは私にもコーヒーを淹れてくれる。
 なんだかあっという間に好みを把握されて、無糖のカフェオレがマグカップになみなみと。

 向かい合ってコーヒーを飲む。
 直利さんは新聞読んでるし無言だし、なに考えてるかまったくわからないけれど……。

 私はぼうっとしながら、美味しいカフェオレを毎朝飲んで……他愛ない雑談を交わすような仲にはなった。

 そんなとき、ふと聞かれた。

「ご両親が亡くなっているとは聞いているが、仏壇なんかはどうなってるんだ」

 やけに真剣に聞かれたその言葉に、私は目を瞬く。

「あ、実家に。今は弟ひとりですけど、工場の様子を見がてらたまに帰るので、そのときに掃除とか」
「工場?」
「あ、はい。うちの実家、ネジ工場なんです。弟が大学を出るまでは、ほかの人に経営をお任せしてるんですが」
「そうだったのか。ご両親はいつ……」
「ええと、結婚式前がちょうど一周忌で」

 直利さんが目を丸くする。そんな顔は初めて見た。
 こっちも目が丸くなっているかもしれない。彼はあきらかに動揺していた。

「それ、……は……知らなかったとはいえ、失礼なことをした。もっと話を聞いておくべきだった」
「え? いえ、そんな」
「いや、申し訳ない。来週なら休日に出なくていいはずだ。墓参りに行こう。どこだ?」
「え? ええっと、上野の……」

 そうか、と直利さんはうなずく。
 私はなんだか妙な気分になりながら曖昧に返事をする。

 翌週のお墓参り、彼は本当に来てくれた。丁寧に墓石を洗ってくれたし、ものすごく真面目な顔で手を合わせてくれた。

 そもそも根が優しくていい人なのだ。

 一緒に暮らしだした私に、情が移ってもなんら疑問はない。もちろん、彼にはほかに本命の誰かがいるのかもしれないけれど……家族としては、仲よくなっていけたらいいな。
 並んで手を合わせながら、そんなことを考えていた。
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