冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
思わずぽかん、としてしまう。心配する顔を見るのは、初めてだった。かつてウサギの着ぐるみの中にいたとき、視界が狭くて顔までは見えなかったから。
「由卯奈、食欲は。その前に着替えるか、汗で冷えてしまう」
グラスをローテーブルに置きながら彼は言う。そうして私を軽々と抱き上げた──って!
「な、直利さん、すみません……っ、私、歩けますっ」
お姫様抱っこされたまま、脚をばたつかせる。関節が痛くて、泣きそうになった。
「無理だ」
彼はそう断言して、私の部屋のドアを開く。
ベッドに私を横たえて「着替えは?」と覗き込んできた。
「……っ、その、クローゼットの」
「わかった」
彼は着替えを出して、当然のように私の服に手をかけた。
「っ、な、直利さん!」
「病人が暴れるな」
「でもっ」
「夫婦だろ。家族は助け合うんじゃないのか」
以前言った言葉をそのまま返されて、私はシュンと眉を下げた。
「でっでも、熱で汗まみれだし……」
「ああ、悪かった」
引いてくれたのか、とホッとしたのも束の間。
「濡れタオルを作ってこよう。拭いてやる」
「拭ッ……!」
私はあまりのことに絶句した。
ふ、拭く!?
直利さんが、私の身体を!?
愕然としているうちに、直利さんがタオルを持ってきてくれる。
覚悟を決めるしか、ないのかもしれない……!
見れば、直利さんの整いすぎたかんばせには、一切の感情がうかがえない。さっきまでの焦燥が嘘みたいに──というか、実際熱に浮かされての見間違いだったのかも。
私の裸をちょっと見るくらい、なんてことないのだろう。
当たり前だ。
そう考えてから、がっかりしている自分がいることに気がつく。
ウサギだった私に向けられた優しさを、また向けられたような気がしたのかもしれない。
結局は、勘違いだったのだけれど──。
無表情のまま、直利さんはぷち、ぷち、と私のブラウスのボタンを途中まではずす。
発熱した息を吐きながら視線を上げる。直利さんと目が合って、彼はじっと私を見つめた。ブラウスのボタンをつまむ手が止まっている。ポーカーフェイスのまま、彼はすっと手をはずす。そうしてうつむき加減に言った。
「……、やはり、自分でやってもらえないか?」
「え? えっと、は、はい」
返事をしつつ上半身を起こすと、思った以上に熱が高いのか、ぐらりと身体が傾いでしまう。ハッとしたように直利さんが私を支えた。
ごく至近距離に、彼の瞳がある。
少し色素が薄い、吸い込まれそうな虹彩。
瞬きをすれば、お互いのまつ毛が触れ合ってしまいそうな──そんな距離。
「あ、りがとう……ございます」