冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
熱のせいだけでなく、頬が熱い。
「いや」
ぱっと離れた彼の表情は、やっぱりいつも通りのポーカーフェイス。
「すぐ戻る」
そう言って彼は部屋を出て行く。
私は呆然とその広い背中を見送って……慌ててブラウスを脱ぎ、身体を清めた。そうしてパジャマに着替え、再び横になる。
「はあ……」
額に手をあてて、考えた。やっぱり彼は、優しい人だ。形だけの妻でも、ちゃんと家族として考えてくれていた。
それにしても、と寝返りを打ちつつ思う。
「あんなにカッコいい人と、キスなんてできるのかな」
こっそりと自問自答。
だっていつか彼は私と子供を作る予定なのだ。……ってことは、とそこまで考えてから首を振った。
キスなんかしなくても、子供は作れる。
義務的な感じになるのかもしれない。……まあ、キスにしろ、その先のことにしろ、私は未体験なのだ。どんなものか、想像もつかない。
ああ、でも。
きゅっと目をつむり、思う。
大好きな人に、愛されてみたかったな。
……大好きな人ができたこともないのだけど。熱があるせいだろう、悲しくて切なくなって、目の奥が熱くなる。
──と、遠慮がちにドアを叩く音がした。
「はい」となんとか答えると、直利さんが入ってくる。本当にすぐ、だった。
「そこのコンビニまで行ってきた。スポーツドリンクと、ゼリー飲料。こっちはお粥」
レトルトパウチのお粥まで買ってきてくれていた。まじまじと見ていると、彼は無表情のまま、それでも少し申し訳なさそうに言う。
「すまないが、料理はからきしなんだ」
「っ、いえ、そんな、全然……」
「何種類かあるから、言ってくれれば温めるくらいはできる」
真剣に彼は言う。
押されてうなずく私を見て少し満足げに目を細め、すぐさま眉を寄せた。
「……しまった、体温計を買い忘れた」
すっと立ち上がる彼に、私は「あの」と声をかける。
「すみません、体温計、持ってます。そこの引き出しの一番奥に」
わかった、と返事をして、彼はサイドチェストの引き出しを開け──そして目を丸くした。私はそれに驚いてしまう。
ていうか、直利さんがびっくりするって……私、机になにか隠してたっけ?
「ほら、体温計」
直利さんは体温計を取り出して、私に渡す。脇に挟んで彼を見ていると、少し逡巡した後に「見てもいいか?」と聞いてくる。
「はあ」
返事と一緒に体温計が鳴る。
38・7℃。発熱しているのを客観的に見てしまうと、余計怠くなってくる気がする。
「……これ、とってあったんだな」
見れば、ジッパー付きのビニール袋に入れてあった、直利さんとの交換メモだった。
私は体温計をケースにしまいながら苦笑する。
「なんか、捨てられなくて」
本人には言えないけれど、妙にヘタウマな直利さんのイラストがゆるくて気に入っているのだ。
直利さんは「ふうん」と取り出したメモを数枚眺めながら言う。
「……あの。いただきます」