冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
「いいなあ……」
「……行ってきたらいいじゃないか」
「でも、あそこで遊んでいるの、子供だけじゃないですか。私、大人なのに」
「君は日本人から見ても顔立ちが少し幼い。ということは、こちらの人々からすれば子供に見えていると思う」
「う、ひ、ひどい……でも、それなら浮かないですかね」
由卯奈はそうひとりで納得すると、階段を降りて海に入り、すいすいとアスレチックまで泳いで向かう。
俺は階段に腰掛け、膝から下を海水につけつつ彼女を目で追う。
気がつけば、追っていた。
今だけじゃない、日本でも、だ。一緒に過ごす数少ない時間の間、俺は少しでも彼女を視界に入れておきたくて必死で視線を動かしていたのだ。
どうして。
彼女は俺にとって、ただの配偶者なんじゃないのか。
干渉するつもりも、されるつもりもなかった。
なのに気がつけば彼女のペースに巻き込まれていて、不思議なことにそれはひどく居心地がよくて……。
アスレチックにたどり着いた由卯奈が、ぴょん、とトランポリンで跳ねる。
きらきらと海水が舞った。
まるで陽の粒が落ちてきたかのように、彼女を彩る。
楽しげに笑う彼女が、ぶんぶんと俺に向かって手を振った。
ああ、と俺は低く声を出す。
「なんてことだ」
頭を抱えたくなった。
まさか、そんなはずはない、気のせいだ、ここが異国で普段と違うからそう感じてしまっているだけだ、気の迷いだ──何度も否定した。けれどそのたびに心臓が痛み、認めてしまえよと拍動した。
冷静さなんかもう、かけらもなかった。
きっと顔は赤い。
視線の先で由卯奈が俺を呼ぶ。健康的な肢体が跳ねる。笑顔があまりに眩しくて、見ていられなくて目線を逸らした。
これが恋でなくてどうする。
俺が恋なんかするのか。
感情を乱すなんてこと、したくなかったのに──……
「どうして、いつ……」
口もとを押さえてつぶやく。
透明な海水がちゃぷちゃぷと寄せては返す。小さな銀色の魚がすいっと泳いで逃げていく。
背後に座っていた男たちが、ヒソヒソと話しているのが耳に入った。
この国の言葉はそう堪能ではないけれど、彼らが由卯奈について話していることくらいは聞き取れた。あの東洋人は胸がどうの、脚がどうのと……下品なことを。どうやら子供には見えていなかったらしい。
振り向いて睨みつける。
『俺の妻だ』
彼らは驚いたように両手を上げ、少し気まずそうにしながら立ち上がり、去っていった。
そう、俺の妻だ。……と、いつの間にか近くまで泳いできた由卯奈が俺を見上げた。
「直利さん、泳ぎませんか」
ゆらゆらと彼女が波に揺られて──
飛び込むと、由卯奈がはしゃいで笑う。
俺は海の中、彼女を抱きしめる。細くて折れてしまいそうな身体が、腕の中でたじろぐ。
「え? な、直利さん」
驚いて俺の名前を呼ぶ彼女の唇に、自分のものを重ねた。苦く塩辛い潮の味。唇を舐めると、面白いほど彼女は身体を跳ねさせた。
「っ、ぁ、い、いったいなにを……っ」
「黙ってろ」
頭の中が熱い。
頭だけじゃない、身体が、細胞ひとつひとつが熱く滾り彼女を求めていた。