冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
慌てて玄関に戻り、文人を部屋に上がらせる。
「きっと、私たちにマスコミが接触するんじゃってことだと思う」
「工場は大丈夫かな?」
文人が工場に電話したところ、今のところは特になにごともないようだった。
ただ、ひっきりなしに知らない番号から電話がかかってくる。どうやって私たちの番号を調べているのだろう……?
やがて、まだ陽の高いうちに直利さんが帰宅した。おろおろとする私の肩を引き寄せ、文人の方を生真面目な表情で見つめる。文人は鼻を鳴らすと、ソファの隅に座った。
「……ほら、政治家なんか、関わってもいいことなんかなかった」
「文人! そんな言い方……! 工場を助けてくれたのも、学費を出してくれたのも、黒部さんなんだよ」
「由卯姉の政略結婚と引き換えにな」
直利さんが私の肩を抱く手に、ぐっと力がこもった。
「今のところは、特捜は動く気配がない。そもそも黒部総理にそんな疑惑が上がっていることすら耳に入ってない。おそらくはガセネタだろう、とは思うが」
淡々と直利さんが続ける。
「俺はしばらく、在宅勤務を命じられた」
「……っ、それって」
直利さんが、黒部総理の孫娘婿だから。
「これも、単純にマスコミから痛くもない腹を探られないための方策だ」
「でも」
私のせいで……!
うなだれた私の背中を、大きな手のひらが何回もなでてくれていた。
夜になって、文人は直利さんに送られていった。ゲストルームに泊まるように言ったけれど「嫌」の一点張りだったのだ。
戻ってきた直利さんは「なにも心配いらない」と甘く私を抱いた。
「むしろ、由卯奈とこうする時間がたっぷりできて、それを喜ぶべきなのかもな」
そう言って、シーツに彼の左手で縫い付けた私の手の指を優しく食む。
爪の生え際を舐め、噛み、口の中に導かれ吸われる。
「ぅ、……はぁ、っ」
あられもない息が恥ずかしい。
……もうきっと、直利さんは聞き慣れているに違いない。そう思うのに、恋慕を自覚してしまうと恥ずかしさは段違いで私を苛む。
快楽に耐えようと噛む唇を、直利さんが親指の腹でつうっとなでる。
「由卯奈。今日はかわいい声を聞かせてくれないのか」
「かわいい、だなんて……っ」
そんなはずない、と抵抗しようとした唇を彼が塞ぐ。少し分厚い彼の舌が私の歯列を舐め、舌の付け根を突いた後にちゅっと吸い上げる。
キスだけで、身体が蕩けそうになってしまう。
「ふぁ、あっ」
歯を食いしばると彼の舌を噛んでしまうから、うまく声が我慢できない。私の手はシーツを掴み、彼の左手を握る指の先は彼の手の甲に食い込む。
「ぁ、ごめんなさ、はぁあっ」
唇が離れたすきに謝ろうとするも、唇を再び直利さんに甘く噛まれ、うまく言葉にできなかった。そのまま口内をむしゃぶられる。
「は、はあっ、あっ」
唇を離し、直利さんが嬉しげに笑う。
寂しい。
唇が離れてしまったことが切なくて、追いかけるように触れるだけのキスをした。
「もっと……」
もっとキスしてほしい。触れてほしい。
気がつけばそんな言葉が零れていた。
自分からねだってしまったことが恥ずかしくて、頬が熱くなっていく。
直利さんは頬を緩ませ、喉の辺りで男性らしい低い笑いをした後に、私の頬をつつく。
「真っ赤だな」
「だって……っ」
「かわいくおねだりできたな、由卯奈は偉いな」
そう言って彼は額にキスを落としてくる。
その優しさに胸が温かくなったのも束の間、あっという間に食べ尽くされるように貪られて……