冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
文人がやってきたのは、妊娠十六週、いわゆる安定期に入ってすぐのことだった。
「久しぶり、由卯姉。体調は?」
入るなりこのところ私がよく食べている洋菓子店のプリンの箱を差し出して、文人は言う。
……あれ、ここのプリン好きだって文人に言ったかな? 疑問に思いつつ箱を受け取った。
「大丈夫だよ! 赤ちゃんも順調みたい」
「よかった」
そう言って文人はうつむいた。
「……オレ、由卯姉に謝らないと」
「謝る?」
「さっき、芳賀さんのところにも行ってきた」
「直利さんの……?」
「……離婚しろ、別れろなんて言って、ごめん」
私は箱を持ったまま目を瞠る。
「あの人、本当に……由卯姉のこと、好きなんだな」
「ど、どうしたの急に」
「黒部さんに聞いたんだ」
文人は私に座るように椅子を示す。ダイニングの椅子に座ると、文人は向いに座って続けた。
「芳賀さんが黒部さんを助けた理由、聞いた?」
「理由……? それは」
なんだろう、と思う。
検察官としての正義感?
あるいは「私」の利用価値を保つため。
口籠る私に、文人は言う。
「『由卯奈が気兼ねなく出産できるように』だってさ」
私は言葉を失う。
そんな、そんなことのために……?
「かなり苦労したみたいだぜ。朝から晩まで歩き回って聞き込みして、証拠探して」
「ど、どうして」
「だから、好きだからだろ」
文人は言う。
「愛してるから、以外にないと思う。今あの人を動かしてるのは、由卯姉への感情だけなんだろうね。そんなに愛してるなら、……大切にしているのなら、オレはもう口を挟まない。本当にこの間はごめん」
それから文人は私を見て眉を下げた。
「由卯姉は、どうしたいの?」
「私、私は……」
言いながら気がつく。
文人がプリンを買ってきた理由。このプリンは。
「……これ、もしかして直利さんから?」
「あ、バレた。そうそう。昼休みにタクシーぶっ飛ばして買いに行ってたよ」
なにが面白いのか、文人はくすくすと笑う。
「あの人、いいね。なんかこう、由卯姉以外見えてないところが」