冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
マンションの地下駐車場から車に乗り地上に出ると、小さな雪片が舞っていた。かといって空に分厚い雲が立ち込めるでもなく、雪はきらりとダイヤモンドのように陽を反射する。
「綺麗」
「このまま積もるかな?」
「積もったら……仕事行かずに一緒にいてくれますか」
知らず、ぽつっと出た本音だった。
赤信号に車を止めた直利さんが、私を見る。
「由卯奈。寂しいのか?」
「……少し」
「悪かった。仕事を調整する」
間髪入れずにそう断言した直利さんに私は目を丸くした。
「え、あっと、ごめんなさい、困らせるつもりじゃ……っ」
「いいんだ。そろそろ若手にも仕事を振っていく時期だし、少しは任せてもいいだろ」
直利さんは悪戯っぽく笑う。
「使えない上司にもな」
「そんな」
直利さんが笑って正面を向き、アクセルをゆっくりと踏む。再びスムーズに動き出した車の中で、私は「ん?」とお腹に触れた。直利さんが血相を変えて車を路肩に寄せる。
「どうした由卯奈、痛むのか?」
「っ、ち、違います。ただ、その……あ、また」
私はまだほんの少ししか膨らみのないお腹に触れて、ちょっと泣きそうになりながら続けた。
「赤ちゃん、お腹蹴ってる、かも」
「……胎動?」
「はい、まだ全然なんていうか、ちょっとなんですけど……こちょっていうか、お腹で泡が弾けてる感じっていうか」
「……触ってもいいか?」
「まだわからないと思いますよ?」
そう言ったのに、シートベルトをはずした直利さんはものすごく真剣な顔でお腹に触れる。……やっぱりまだわからないらしかった。
直利さんがこのとき浮かべた表情を、なんと表現すればいいかわからない。
幸せと切なさと、いろいろな愛情が入り混じった……そう、彼は私を愛してるから……こんな顔ができるんだ。
やっぱり私は苦しい。
その苦しさが、幸せで愛おしい。
「早く大きくならないかな」
直利さんが目を細めてそう言うから──私は彼が愛おしくて仕方ない。