冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
車が到着したのは、見覚えのあるホテルだった。
「ここ……」
私と直利さんが披露宴をしたホテル。エントランスで足をすくませる私に、直利さんはハッとしたように目を向けた。
「由卯奈。ここ、嫌か」
「え?」
「嫌だよな、俺が……君を傷つけた場所だ。悪い……やり直したい一心で頭が回ってなかった。別のところに」
「あ、あの、大丈夫です。ここでなにを」
この間みたいに食事でもするのだろうか。直利さんは迷い犬みたいな心細そうな顔で言った。
「結婚式」
「……へ?」
「結婚式を、挙げたかったんだ」
壁面いっぱいに、白いドレスが下げてある。……全部ウェディングドレスだ。
「子供が生まれたらまた挙げよう」
直利さんが言う。
「今度はドレスもフルオーダーで……そうだ、女の子ならお揃いを着てもかわいらしいよな」
そう言いながら、座り心地のいいソファに座っている私のところに何着ものウェディングドレスを運んでくる。
「こっちも似合うし、あっちも似合っていたな」
「奥様お綺麗でいらっしゃるので、どのタイプもお似合いですよね!」
衣裳室のスタッフがお世辞で持ち上げるものだから、直利さんはまんざらでもなさそうな顔をしてうなずく。
「そうでしょう。全部着せたいな……ただ妊娠中なので、無理はさせたくないんです」
「そのようにご連絡をいただいたので、すべてお腹を締め付けないものを選んではおりますが、無理はいけませんものねえ。ご出産後はぜひウチのデザイナーをご指名くださいね」
最終的に、私が選んだ……というか選ばされた、というか、とにかく着たのはプリンセスタイプのウェディングドレスだった。ふんわりした裾が、女の子の憧れという感じでかわいい。
「わあ……私じゃないみたい」
更衣室の大きな鏡を見ながら、ついつぶやく。
髪の毛はアップにまとめられ、真珠やダイヤの髪飾りで彩られていた。こぶりなティアラの輝きは、素人目にもガラスやイミテーションじゃないとひと目でわかる。
「結婚式だなんて……」
嬉しくない、と言ったら嘘になる。
私にだって憧れはあった。でもそれは、直利さんと政略結婚したことで失われたと思っていて……。
「由卯奈」
名前を呼ばれ振り向くと、そこにいたのは白のタキシード姿の直利さんだった。まるで映画から抜け出してきたかのような佇まいに、思わずハッとしてしまう。