冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
「どうした? 似合わないか」
「そ、そんなこと……すごく素敵です」
直利さんは何度か目を瞬いた後、ゆっくりと目を細めた。
「ありがとう──でも、君こそ」
直利さんは私のそばまできて、上品なレースでできたウェディンググローブで包まれた私の手を取った。
「信じられない。こんなに美しい人が、俺の妻だなんて……」
「え、い、言いすぎです」
「そんなことはない」
ムッとしたように直利さんが眉を微かに寄せる。
「由卯奈はかわいい。世界一」
そう言って、恭しく私の手をかかげる。
「行こうか、お姫様」
頬にぶわぁっと熱が集まった。
「っ、よ、よく普通の顔でそんなこと言えますね……っ」
「ん? 常々思っていることだからな」
直利さんは飄々と言う。
「君は俺のお姫様で、天使」
「や、やめてください……っ」
いつの間にかスタッフさんたちは姿を消していて、私たちはふたりきり。
手を引かれ更衣室の扉を出ると、そこはふかふかの赤い絨毯が敷き詰められた廊下だ。ここは披露宴のときも通ったから知っている。
「あ」
思わずつぶやいた。
「どうした?」
「えっと……」
つい反応してしまったのを悔やむ。ちょうどここは、披露宴の日に直利さんが「野暮用」発言をしていた場所だ。
直利さんも気が付いたのか、綺麗なかんばせがみるみるうちに曇る。慌ててへにゃっと笑って見せるも、直利さんは悔しそうに唇を噛む。
そうしてその廊下を進むと、中庭へと続く瀟洒な広間にたどりついた。広間の天井まであるガラスの折れ戸はすでに開かれていて、時折雪の花がふわりと舞い込んでくる。
手を引かれるがままに、折れ戸から中庭に出た。
直利さんが私にあたる風を遮るように半歩先を進む。
中庭の石畳の先にあるのは、イタリアから移築したのだという石造りの教会。天使のレリーフがこちらに目を向け微笑んでいる。
教会の扉もすでに開け放たれていて、私たちはそこに足を踏み入れた。