冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
私と直利さんとの結婚も、実は政略結婚でもなんでもなかったらしい。
直利さんの人間性を気に入っていた総理が、何の気なしに提案した単純なお見合いで、断ったってなんの問題もなかったとのこと。
今思えば、断らなくて本当によかったと思っているのだけれど。
正直、最初から言っておいてほしいとは思うけれど……身内には極端に口下手なこの人のことを、私はなんだかかわいらしいおじいちゃんだと思うようになってきていた。
私はお母さんの代わりにはなれないけれど。
「……産まれたら、遊んであげてくださいね。ひいおじいちゃん」
私の言葉に、総理は……「おじいちゃん」は目を丸くして、それからちょっとだけ目を潤ませた。
と、ノックの後ガラリとスライドドアが開く。そこにいたのは直利さんだった。花束を抱えている。
「おや、直利君」
「え、お仕事は……?」
抜けてきた、とこともなげに彼は言う。
「ああ総理、いらしていたんですね。由卯奈、この部屋殺風景だろ? 花買ってきた」
そう言って彼は部屋に花を飾った。
昼すぎになってやってきたのは文人だった。
「由卯姉、どう?」
「ん、大丈夫だよ。ねえ、うちから裁縫セット持って来てくれない?」
「だめ。普段から無理するからそうなるんだよ」
口酸っぱく文句を言ってくるのは、私を心配しているから。わかってはいるけれど姉弟の気安さゆえに軽く唇を尖らせた。
「してないもの」