冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
「してる。ずっと義兄さんも心配してたんだぜ。夜ふかししてスタイやらエプロンやら、いろいろ作ってるって」
「だって作りたいんだもの。生まれたらそんな暇、ないかもしれないし」
それからふと思い出し、聞いてみた。
「中川さん、どうかな? 仕事なじんでる?」
中川さん、とは少し前にあった黒部総理の……おじいちゃんの冤罪スキャンダルの際、いろいろな証言をしてくれた人だった。自身も半グレ組織で仕事をしたとかで書類送検なんかはされたらしいけれど、捜査に協力したこともあり執行猶予がついていた。
その彼は今、うちのネジ工場で働いている。
「人間関係を作るのが苦手、って言っていたけど」
「今のとこ大丈夫みたいだよ。ウチのジイサンたち、職人気質だからね。ちょっとした前科くらいじゃ怯まないし、本人も真面目にしてる」
「よかった。なじんでくれるといいね」
文人が微笑みうなずく……と、ノックの後にガラリとスライドドアが開いた。立っていたのは……またも直利さん。
「ああ文人、来ていたのか」
「義兄さんこんにちは。義兄さんからも言ってやってくださいよ、妊娠中くらいよく寝ろって」
「君の言うことも聞かないのか。まったく……」
「あ、あの、直利さん? お仕事は」
「抜けてきた。……ああ、ちょうどいい。プリンを買ってきたからふたりで食べてくれ。少し急ぐから」
残念そうにそう言って、お腹をそっとなでて額にキスをしてから、足速に彼は病室を出て行く。
「由卯姉、ほんっと愛されてるよなあ……」
「っ、う、うん……」
どうしよう、頬が熱い。まさか弟の前でいちゃつかれるとは思わなかった。
「義兄さんのためにも、せめて入院中くらいのんびりしたら?」
「ん……」
私はしぶしぶうなずいた。