冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
出産予定日も近づいたある夜、面会時間ギリギリに直利さんがやってきた。
「お、お仕事は……」
このところ忙しかった上に、出産に立ち会いたいとかで仕事を繰り上げているから激務のはず……! 一日とあけず顔を出してくれるのは嬉しいけれど……!
「抜けてきた。心配するな、自分の仕事は終わっている」
さらりとそう言って、彼はベッドの横の椅子に座る。
それから目を細めてお腹をなでながら嬉しそうな声で言う。
「お、蹴った」
「無理してませんか?」
「ん? してない」
不思議そうに彼は続けた。
「由卯奈のそばにいたいんだ。少しでも」
「……晩ご飯、食べました?」
「ああ、今からだ」
「身体、気をつけて……その、ごめんなさい」
直利さんが「なにが」と目線を向ける。ついうつむきながら続けた。
「家のことできなくて……ご飯作ってあげられないの、心配です」
直利さんは無言で私の手を握り、その手をお腹の上に乗せた。
それからそっと額と額を合わせ、穏やかな声で言う。
「なあ、由卯奈。今君はここで俺の子を育ててくれている。今、それ以上に大切なことなんかあるか?」
胸の奥がぎゅっ、となる。
愛されるってやっぱり苦しい。
でも狂おしいほどに幸せだ。
「直利さん……」
「なんだ?」
甘い声で彼は答える。私は彼を見上げ目を細めた。
「気のせいかなって、思ってたんですけど……」
「? うん」
「さっきからお腹、痛くて」
「ん?」
にへら、と笑った。
「陣痛、かも……」
直利さんがぽかんとした後、とんでもない勢いで病室を飛び出す。多分、ナースステーションまで走ってくれていると思うのだけれど。
少しずつ、ぎゅうっと痛んでは緩む生理痛に近い、けれど不慣れな感覚に緊張を覚えつつ、私は冷静にナースコールを押した。そうしてクスクス笑ってしまう。
「あの日の、冷静で無感情だった人と同一人物なのかなあ」
戻ってくる足音に思わずそんな感想をつぶやきながら、お腹に向かってそっと話しかける。
「あなたのパパ、少しあわてんぼうさんかも。よろしくね」
赤ちゃん抱っこするの大丈夫かな、なんてちょっと幸せな不安を覚えつつ、大きなお腹をよしよしとなでた。
「もうすぐ会えるね」
あなたの未来が、いろいろな幸せに彩られたものでありますように。
パパもママも、ただそれだけを願っているよ。
ガラリとドアが開く。最愛の人の瞳に映る、心配と愛情の色に微笑みを返した。