冷徹官僚は高まる激愛を抑えきれない~独占欲で迫られ懐妊いたしました~
ホテルに着くとまず、素人目にも高級だとわかる朱赤の振袖に着替えさせられた。
紅葉をイメージしてデザインされたらしいそれは、動くと金糸が煌めいてとても美しい。
絶対に汚さないようにしなくちゃ……!
万が一弁償なんてことになったら、いったいいくら払えばいいのか検討もつかなかった。
そうして、日本庭園に面した和室で始まったお見合い、私は開始一秒で固まってしまっていた──芳賀直利さんの、あまりにも鋭利な視線に気圧されたのだ。
すっと通った切長の眦から感情を読むことはできない。
整いすぎて、まるで人間じゃないみたい。
美しい人である一方で、広い肩やくっきりとした喉仏、節くれ立つ大きな手は男性らしく、そのギャップが妙にマッチして艶かしい。
彼が着ているスリーピースのスーツは、あきらかに量販品じゃない。
身体にぴったりと合うようにあつらえられたそれをサラリと着こなして、芳賀さんは姿勢よく座っていた。ばちりと目が合い、慌ててぺこりと頭を下げる。
私を一瞥し、彼も軽く頭を下げる。
その仕草は洗練されとても優雅で、オタオタしている自分が恥ずかしくなる。
芳賀さんのご親戚でもあるらしいお仲人さんに『お若いふたりで』なんて言われて、黒塗りの座卓を挟んで無言で向かい合う。
白磁に紺青が映えるお湯呑みに上品な量だけ注がれた緑茶が、どんどん冷めていく──と、芳賀さんが立ち上がり言った。
「散歩でもどうですか」
無言の空間に耐えられなくなっていた私は、慌ててこくことうなずいた。
素敵な声……。
ふとそう思う。落ち着いた低い声は、誰でもついうっとりしてしまいそうな色を帯びていた。
一方で、私は違和感を覚える。
この声、私、どこかで……?
でも、そんなわけない。
こんな素敵な人と会っていたら、いくらなんでも顔を忘れてしまうわけがないだろうから……と、私より先に庭園に降りる芳賀さんを見上げながら考えた。
まだ濡れ縁にいる私より、庭に降りた芳賀さんの方が背が高い。私の背が少しだけ低い方だとはいえ、芳賀さんはおそらく百八十センチ以上あるだろう。
用意されていた草履を履こうとすると、ふと手を取られた。
手の先に感じる人肌の温度に、頭が混乱する。
目を上げると、芳賀さんと視線が絡まった。
男性らしい硬い指先の感覚に思わず息を呑む。
「気をつけて」
淡々と彼は言う。
私はエスコートされるがごとくに手を持たれたまま、頭のてっぺんからつま先まで一気に熱くなる感覚を覚えた──私、今芳賀さんに手を持たれてる!?