実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

「……よろしければ、一緒にお茶でもいかがですか?」
「よろしいのですか!?」

 無邪気に喜ぶ姿が微笑ましいな、と思いながら紅茶をカップに注ぎ、お菓子を差し出す。
 レザール様は、14歳にしては小柄な体で、優雅に私の前に座った。

「ラペルト兄上は、いらっしゃらないのでしょうか」
「そうね……。お忙しいようですね。今日は、いらっしゃらないと思います」

 王太子ラペルト・ウィールディア殿下は今日はいらっしゃらないのではない。
 毎日いらっしゃらないのだけれど……。

 噂では、聖女と認定された、ララベル・ロイス男爵令嬢と一緒に過ごしているらしい。
 次期国王になるものとして、今はとても大切な次期なのに、王太子教育にも積極的ではないと聞く。

 ため息をつこうとした次の瞬間、私は息を止めた。

「そうですか!」

 なぜか、満面の笑みを見せたレザール様。
 私が、王妃教育を終えて、束の間の休息を取っていると、最近なぜか必ずレザール様はこの場所に現れる。

 ……お母様がいらっしゃらないから、私のことを家族のように慕ってくれているのよね?

 公爵家の一人娘として生まれ、やはり母を早くに亡くした私も、親の愛情を一身に受けてきたわけではないけれど……。

「そういえば、お姉様はもうすぐ王立学園をご卒業されますね」
「そうね……」

 貴族は必ず通うことを義務づけられている王立学園を卒業すれば、この国では大人と見なされる。
 今は、レザール様とこういう風に会うことが出来るけれど、これからはきっと……。

「……お祝い、しなくてはいけませんね」

 そのことをきっと目の前の少年も理解しているのだろう。
 王太子妃の婚約者と、末の王子という関係では、お互いのことを姉弟のように慕っていたとしても、取らなくてはいけない距離というものがあるのだから。

 なぜか、まっすぐに私のことを見つめたレザール様の瞳に、少しだけ暗い影が差したのは、急に太陽が雲に隠れてしまったせいなのだろうか。

「…………レザール様?」
「お姉様、幸せになってくださいね?」
「ありがとう。そうね、この国に貢献できる王太子妃になるわ」

 この後、卒業式の真っ最中に、私は婚約破棄と聖女を貶めたという濡れ衣を着せられて、五十歳年上の辺境伯に嫁ぐために、辺境に去ることになった私。

 ……あの頃に、あまりよい思い出はない。
 それでも、レザール様と過ごした小さなお茶会だけは、いつだって心を温めてくれる大切な思い出なのだった。
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