実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

 ***

「…………ん」

 窓から降り注ぐ朝日。
 魔術師団本部は、王都の中心部からは少し離れた場所にある。
 広大な敷地は、緑にあふれて鳥の住処もあるのだろう。

 毎朝爽やかな小鳥のさえずりに目を覚ます生活が、私は思いのほか気に入っている。

 ベッドの中からしばし起き上がることも出来ずに、私は思わず寝返りを打つ。
 あの頃の夢は、灰色で、辛いことばかりが起きる。
 だから、起きたときには動悸がして、時には泣いてしまっていることもあった。

 けれど、今日の夢は、陽だまりの中のように暖かくて、幸せだった。
 何よりも……。

「うう、やっぱり乙女ゲーム時代のレザールきゅんは、この世界に降り立った天使!!」

 当時の私は、まだ違う世界で暮らしていた記憶を取り戻していなかったから、レザール様のことを可愛らしいとは思っても、とことん鑑賞しようとは思っていなかった。
 けれど、あの頃の記憶を再生すれば、そこには世界で一番可愛らしくて尊い推しの姿。

「ああああ! あの頃の私に伝えたい! そこに、推しはいるんだよ!! と!!」

 もう一度あの頃の夢が見られないかと、頭から布団をかぶった時、部屋の扉が控えめに五回叩かれた。
 それは、セバスチャンが来客を告げるときの叩き方だ。
 仕方がないので、私は起き上がってきちんと身なりを整えると、部屋の外に出る。

 まさか、彼が王都まで押しかけてきてしまうなんて、知りもしないで。
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