実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

 ***

 手早くドレスに着替える。
 コルセットがいらないエンパイアスタイルのドレスは、ウェストよりも高い位置に切り替えがあって着心地がいい。

 家で過ごすときはそのまま、来客があるときは丈の短い上衣を羽織る。

「……ところで、こんな早朝からお客様って?」
「……食堂でお待ちです」
「なるほど」

 食堂にいる、という時点で思い当たる人は一人しかいない
 ドアを開ければ、当然のように、セバスチャンが作ってくれた朝ご飯を頬張る黒い髪と金色の瞳を持つ青年がいた。

「…………」

 無言のまま見つめていると、ナイフとフォークを置いて、口元を拭った青年は優雅に立ち上がった。

「お久し振りです。お祖母さま」

 そのまま、私の前に立ち、恭しく礼をする。
 そして、顔を上げると、ニカッと人好きのする笑みを見せた。

「なんてな? 久しぶりだな。フィアーナ」
「…………お久し振りです。ロレンス様」
「なんだ、そんな他人行儀な」
「辺境伯を継がれたはずでは?」
「はは。……父上は、貴族籍を取り戻した。爺さんが、最期に頭を下げたらしい。もうしばらくは、自由の身だよ」
「そうでしたか」
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