実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「……リーフ辺境伯、それからお会いしたことのない奥様。お世話になりました」
五十歳も年が上だった夫。
初めのうちは、思い出した記憶と異世界、そして自分の境遇におびえるばかりだった私に、本当に優しくしてくれた人。
挨拶を終えて、私に幸せを教えてくれた領地を去ろうとしたとき、慌てたように追いかけてくる声がした。
「奥様! こちらのお屋敷は、全て奥様の名義にされるようにと……!」
「セバスチャン……。ありがとう、でも私は置いていただいただけの形だけの妻。旦那さまの直系がこのお屋敷を継ぐのが道理というものよ」
リーフ辺境伯には、一人だけ孫がいた。
数回しか会ったことがなかったけれど、好青年だった……。
けれど、事業を立ち上げて世界中を飛び回っている彼に、ようやく連絡がついたのが昨日。
全ての遺産は、彼名義にするという連絡もしたけれど、まだ返答は返ってこない。
でも、彼が帰るのを待たずに葬儀を終えた私は、荷物をまとめて、この土地から出て行くことにした。
「リーフ辺境伯は、私の濡れ衣も全部晴らしてくれたから……」
名実ともに、自由の身になった私。
もちろん、亡くなった奥様だけを愛していたリーフ辺境伯と私は、白い結婚だった。
それでも、孫のように思っている、とあの断罪劇の事実を全部調べてくれたことに感謝しかない。
ほとんどの罪状は、聖女と王太子が裏で行っていたことをなすりつけられただけで、最後の毒殺未遂は自作自演だった。
ヒロインと王太子は、公爵令嬢だった私に濡れ衣を着せたことで罪を問われて幽閉された。
その後、リーフ辺境伯は白い結婚だったことを公表して離婚しよう、と申し出てくれたけれど、すでに体調が思わしくなかった恩人を置いて、一人王都に戻るなんて出来るはずなかった。
この世界で、たった一人肉親のように接してくれた人はもういない……。