実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
それなのに、なぜリーフ辺境伯は、私に本邸を与えるなどという遺言を残したのだろうか。
どうして彼は、最期まで私にそこまでのことをしてくれたのだろう。
「……暗い顔するなよ。爺さんの葬儀に間に合わなくて悪かったな。感謝している」
「遠方にいたのですもの……。それに、妻として当然のことだわ……」
「……すでに王都では、爺さんとフィアーナは、白い結婚だったと広まりつつあるのにか?」
「えっ、どうして」
真顔で私のことを見つめていたロレンス様は、その答えを教えてはくれなかった。
代わりに手を差し出される。
「えっと?」
「魔術師団は、魔道具師にとって最高の取引相手だ。ふふふ、最年少魔術師団長にして王弟、レザール様とコンタクトをとったという情報は、すでに俺の耳に届いている」
「ちょ! レザール様は!」
商魂たくましい、義理の孫。
お陰で魔道具のアイデアを出すだけの私に、毎月莫大なロイヤリティが入っているから、頭が上がらないけれど、それとこれとは話が別だ。
「…………そんなに、特別か?」
「え、特別?」
もちろん、レザール様は私にとって、命を捧げたいくらい大好きな推し。特別に違いない。
ただ、ロレンス様の言う特別の意味は、推しとは少し違う気がした。
その時、二人きりだった食卓に響いた五回のノック。
「………ふーん、来客か。爺さんと手紙のやり取りをしているのは知っていたが、俺が来たというのはどこで知ったんだろうな? 誰にも気づかれないように、訪問したはずなんだが」
静かに食堂に入ってきたセバスチャンから告げられた来客。
それは、話題の主、レザール様なのだった。