実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「ところで、魔術師団長殿にお会いできた、この得難い機会に」
黙って私たちのやり取りを見ていたロレンス様の言葉に、ハッと我に返る。
なぜか分からないけれど、カッと熱くなってしまった頬に首をかしげる。
でも、この感覚を私は知っている。
(これは、レザールきゅんのスチルをニヨニヨ見ているところを、家族に覗かれてしまったときのあれだわ!)
無事についた結論に納得しつつ、始まってしまった商談会を眺める。
レザール様は、いつも早朝には魔術師団本部に入っていたけれど、お時間は大丈夫なのだろうか。
「これは、遠くまで暗号を飛ばせる装置です」
「それは、風魔法による通信とは違うのか?」
「風魔法は、便利ですが、属性を持っていないと使えませんし、かなりの魔力を消費しますよね? こちらは、なんと魔力がなくても使うことが出来るのです!!」
身を乗り出しているレザール様。
すでに、販売員の術中にはまっている。
そういえば、あれは「メールがあればいいのに」という私のひと言から出来上がった魔道具だ。
……ようやく実用化したのね。
瞬時に相手に連絡が取れる魔道具。
もう少しだけ早く実用化していれば、リーフ辺境伯の最期に、ロレンス様は間に合ったのだろうか。
(……ううん。いつも旦那様は、私に言っていた。過ぎてしまったことを悔やんでも、仕方がない、前を向きなさいって)