実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
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公爵家令嬢フィアーナ・レインワーズは、いつでも社交界の注目を集めていた。
けれど、それは記憶を取り戻す前の私の話だ……。
「うーん。前世の記憶が邪魔をしてしまうのよね……」
そもそも、レザール様は、違和感を感じていないのだろうか。
リーフ辺境伯と、ロレンス様は、私が記憶を取り戻してから出会った人たちだ。
だから、私が少々貴族令嬢らしくない言動を取ったって、そういうものだと思っている節がある。
三年前の私と、今の私は、ずいぶん変わってしまった自覚がある。
ああ、でもレザール様の前でだけは、王太子の婚約者としての仮面を脱ぎ捨てて、優しいお姉様でいられたから……。
「――――ある意味、三年より前のフィアーナの素顔を知っている唯一の人なのかもしれないわね。レザール様は」
それでいて、レザール様は乙女ゲームの攻略対象者。
私は、悪役令嬢なのだ。
そんな二人が、一緒にパーティーに参加することなど、許されるのだろうか?
「…………うーん」
リーフ辺境伯家から持ち出してきた荷物は、それほど多くない。
領内から出なくてもいいと言ってくれたリーフ辺境伯のお言葉に甘えて、私は社交界には参加していなかった。
本当に、以前の私はよくやっていたと思う。
あの場所は、きらびやかだけれど、水面下は戦場だ。
「…………そう、戦場だから、武装が必要なのよ」
「フィアーナ様、そう仰ると思って、王都本店より主任デザイナーを呼んでおります」
「セバスチャン!」
振り返ると、いつものように黒い執事服に身を包んだセバスチャンが、ただ者ではないたたずまいを感じさせながら、ニコニコと微笑んでいた、