実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「フィアーナ様、いまや流行の発信地は、リーフ前辺境伯夫人にあると言ってもいいくらいなのですよ?」
「え…………。その人誰」
「もちろん、レインリーフ服飾店のオーナー、リーフ前辺境伯夫人フィアーナ様です」
「……冗談を言うこともあるのね?」
「冗談だと思われるのですか?」
確かに、私が前世の知識を総動員して立ち上げたブランド、レインリーフは、王都中に旋風を巻き起こした。
社交界では、最新のドレスを手に入れたければ、レインリーフに行け、とまで言われているらしい。
でも、流行の発信はレインリーフ服飾店であって、社交界から姿を消した私のはずがない。
「でも、主任デザイナーは、上流貴族でも一年待ちなのでしょう? パーティーは、来週なのに間に合うのかしら」
「もう、すでにそちらの部屋に控えております」
「え……?」
おずおずと、扉を開けると、背筋と視線がまっすぐな女性がこちらを向いていた。
「お久しぶりです。フィアーナ様」
「ええ、久しぶりね。あなたの王都での活躍は聞いているわ」
「すべて、フィアーナ様のおかげです」
「そんな大げさな」
主任デザイナー、メルリスは、もともと辺境伯家に服飾品を下ろしていた父の見習いとしてついてきた。
(彼女の着ていたワンピースが素晴らしくて、聞いてみたら自分で作ったと言うからスカウトしたのよね)
私の考える、この世界にしては少々独創的なドレスを全て形にしてくれたメルリスは、徐々に有名になり王都に本店を構えることになったレインリーフ服飾店の主任デザイナーになった。
手紙では細かくやりとりをしていたけれど、会うのは半年ぶりだ。