実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
(…………前辺境伯夫人である私なら、未婚の令嬢を連れていくよりもいいに決まっている。ましてや、三年前から見知った仲で、悪役令嬢として断罪後の私自身が失う名誉なんて、もうない)
うんうんと頷いている私は、レザール様が微妙な表情で私のことを見つめていることに気がつかなかった。
エスコートされた手を熱いのに、胸の奥にはなぜか冷たい石ころみたいな塊があって苦しい。
その理由なんて、少し真剣に考えれば、すぐに分かってしまうのだろう。
でも、今はその答えを知りたくなんてなかった。
「レザール様のお力になれるなら、よろこんで」
そう告げると、一瞬だけ虚を突かれたような顔をしたレザール様は、なぜかさみしそうに微笑んだ。
「…………きっと、あなたにとって俺は、いつまでも年下の王子、なのでしょうね」
「え……? それはどういう……」
次の瞬間、引き寄せられて、バランスを崩しかけた私は、思わずレザール様の腕に腕を絡めた。
そのまま、レザール様の思いのほか力強いエスコートを受けて、私は貴族たちの戦場に足を踏み入れる。
「行きましょうか?」
「は、はい」
私に向けられたレザール様の微笑みは、全ての貴族夫人も令嬢も虜にしてしまうほど美しい。
でも、少し幼いいつもの笑顔のほうが好きかもしれない。私は、ふと思ったのだった。