実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

(そんな……。だってレザール様には好きな人が)

 会場にいる人たちには、レザール様が私に甘く笑いかけたように見えるだろう。
 でも、私は知っている。
 これは本当のレザール様の笑顔じゃないって。

「あの……」

 その時、会場に音楽が流れはじめる。
 周囲に弁解することも出来ないまま、掴まっていたのと反対の手が引かれて、私たちは真正面から向き合った。

「……踊っていただけますか?」
「……はい、喜んで」

 外れかけてしまった、よそ行きの仮面を被り直す。
 レザール様に向けた私の微笑みも、もちろんいつもの笑顔じゃない。

 ゆっくりと踊り出した私たち。

「あの頃、一度だけこうして踊りましたね」
「……レザール様」
「兄上が、他の令嬢に囲まれていたあなたをお誘いしたあの日」

 そう、王太子の婚約者になってから、いつも私は、社交界で一人立たされていた。
 卒業式間近、私が最後に参加したパーティーで、レザール様にダンスに誘われた。

 当時は、私のほうがレザール様より背が高かったから、エスコートされたというより、一緒に楽しく踊ったという方が合っていそうだけれど……。

 あの日の少年は、今は大人になって私を見下ろし、ダンスをリードしている。

「レザール様」

 グイッと腰を引き寄せられ、ドレスの裾を翻しながらターンすれば、会場から拍手が沸き起こる。
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