実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「ふふ、やっといつものフィアーナだ」
「……あの」
吐息がかかりそうなほど近い距離。
きっと今なら会話をしても、私たちにしか聞こえない。
「……怒っていますか?」
「え? どうして」
「……あなたを手に入れたいからと、噂を流し、こんな手段に出た俺のことを」
「え?」
眉を寄せたままのレザール様の笑顔からは、切なさすら感じる。
「ずっと、好きでした」
「……レザール様」
「その答えすら聞く勇気がないくせに、あなたが欲しくて、外堀を埋めて」
答えなくては、と思うのに唇がしびれて、頭がぼーっとしてしまい、上手く答えられない。
今の言葉は、いつもの私の勝手な妄想なのではないだろうか。
曲が終わり、静かにもう一度向かい合った私たち。
まるで恋人にするように、手の甲に落ちてきた口づけ。
「ずっと、あなただけを愛していました」
微笑んだレザール様の笑顔は本物だ。
それなのに、どこか悲しそうで。
「行きましょうか」
あまりの衝撃に、答えを口に出来ないまま、レザール様に引き寄せられて私は歩き出した。