実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
その後私たちは、参加者たちに囲まれてしまった。
社交界にほとんど顔を出すことがなかった末の王子、そして魔術師団長と縁を繋ぎたいという意図が透けて見える……。
けれど、予想外にも私の周囲も、貴族令嬢や夫人であふれかえっていた。
「そのドレスは、もちろんレインリーフの主任デザイナーメルリスの新作ですわね!?」
「ええ、もちろんですわ」
こうなったら、レインリーフの宣伝を頑張ろうと心に決めて、貴婦人の微笑みを貼り付ける。
少しだけ離れたところで、やはり囲まれてしまったレザール様も、もちろん美しいけれど冷たくて近寄りがたい笑みを浮かべている。
「――――王都での噂は本当なのですか?」
「噂……。ですか」
「ええ、レザール・ウィールディア殿下との」
「あ、それは……」
その噂話を先ほどまで知らなかったため、答えに窮してしまう。
レザール様に関する話題は網羅していたつもりだったのに、どうして情報が入らなかったのだろう。
(それに……)
先ほどの言葉を思い出して、頬が熱くなるのを感じたその時、手首を掴まれてそっと引き寄せられる。
それだけでも、高いヒールを久しぶりに履いた私は、姿勢を崩してよろめいてしまった。
当たり前のように支えられる体。
もう、知ってしまった。ハーブとシャボンの香り。
振り向かなくたって、誰なのか分かってしまう。