実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

「申し訳ないのですが、俺の片思いですので、彼女を困らせないでいただけますか?」

 その声は、いつもと違って大人びていて冷たい。
 レザール様の言葉に、会場がざわめく。
 私は、ますます熱くなってしまった頬を隠すために扇を広げて、目元だけで微笑んだ。

「……フィアーナ。行きましょうか」
「え、ええ……」

 辺境では、風と自然と近しい人たちとだけ過ごしていたから、たくさんの人に囲まれている状態から離れることができてホッとする。
 けれど、それと同時に心臓は高鳴るばかりだ。

(でも、推しが私に片思いなんて、あっていいはずがない)

 けれど、先ほどから何度も言われている。
 いくら、私が恋愛ごとに疎いからといって、幾ら何でもこれは勘違いではないだろう。

「すみませんでした……」
「……どうして謝るのですか?」
「あなたを巻き込んでしまった自覚があります」
「私を?」

 テラスには誰もいなかった。
 静かに輝く月が、レザール様の美しい水色の髪をきらめかせている。
 これは、間違いなく、ヒロインと初めてパーティーに行ったときのスチルだ。

「レザールきゅん」
「……ふふ。あなたは、そのままでいたほうがきっと幸せなのでしょうね」
「はい!! レザールきゅんを見ているだけで幸せです!」

 思わず出てしまった言葉は、違う世界の私とフィアーナとしての私、まごうことなき二人の本心だ。
 私は、レザール様のことが好き。それだけは、間違いない。

「でも、俺の隣にいれば、今日みたいなことばかりだ。そして、危険にもさらされる……」
「…………」
「それなのに……」
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