実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
***
前世の記憶を急に思い出し、しかも取り返しがつかない婚約破棄と断罪。
間違いなくえん罪なのだと、フィアーナとして過ごしてきた記憶が告げている。
けれど、それはここではない世界の記憶とごっちゃになって、私をますます混乱させるだけだった。
それでも、おそらく悪役令嬢としてのエンディングでは、一番ましな追放先だ。
「大丈夫かい?」
床に座り込んだまま立ち上がることが出来ない私の前に、誰かがしゃがみ込んだ。
その声は、優しい響きをしていた。
呆然としたまま、その声の主に顔を向ける。
そして、私は衝撃を受けた。
「イケオジを具現化した存在……」
「イケオジ? はは、面白い子だね」
差し出された手は、年齢相応にしわがあるけれど、大きくて温かい。
ぎゅっと掴まれた瞬間、何かが壊れた音がした。