実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「うっ、うえええぇん」
急に子どもみたいに泣きじゃくったことに戸惑うこともなく、「もう、大丈夫だ」と言って、その人は私の手を引いた。
不思議なことに、その人のことを疑う気になれず、ついていく。
そんな私を卒業式の参加者の好奇の視線から守るように、スッポリとかぶせられたマント。
針葉樹のような、安心できる香りに包まれる。
馬車でひとしきり泣きじゃくって、寝入ってしまった私。
次に目を覚ましたとき、馬車はすでに王都から遠く離れていた。
「あの……」
「何も心配いらない。これから先、短い付き合いになるかもしれないが、必ず君を守ってあげよう」
「あなたは?」
「リーフ辺境伯、ガリアスだ。不本意かもしれないが、今日から君の夫になった」
「夫……?」
差し出された手をもう一度握る。
歳月を感じるけれど、温かくて、安心できるその手は、たぶん私がずっと欲しくて仕方がなかったものだった。
「今日から君の名は、フィアーナ・リーフだ」
「はい。……旦那様」
「……旦那様? なんだかくすぐったいな」
そう言って笑ったその人こそが、悪役令嬢が嫁ぐ、五十歳年上の旦那様だった。