実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「ここは、天国でしょうか」
「ふふ。似ているかどうか、先に行って確認しておくよ」
「……え? 何言っているんですか。ずっと一緒にいて下さい!」
「……君が望むなら、できるだけ長く一緒にいられるように努力しよう」
「約束ですよ!」
「ああ、約束だ」
ポンッと置かれた手に、優しく頭を撫でられる。
私が知らなかった、幸せな時間。
穏やかで、自由で、誰かに愛される時間。
でも、その時間には限りがあるってことを、リーフ辺境伯は、もう知っていたに違いない。
世間知らずで実際の年齢よりも幼かった私が、そんなことに気がつけるはずもなかった。
私を見る目は優しくて、それでいて誰かを重ねているようでもあった。
あとになって思えば、私の大叔母様がリーフ辺境伯の奥様だったのだ。
誰を重ねていたかなんて、明白なのだろう。
「幸せになりなさい」
「……今、とっても幸せです。全部、旦那様のおかげですね!」
「そう。嬉しいよ」
旦那様が笑うと、私もとても嬉しい。
辛かった思い出が、消えてしまうように。
それでも、耳の奥でで消えないのは、「お姉様!」と呼ぶ可愛らしい声だ。