実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
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「……今日もこちらを見ていた気がするわ?」
翌日も、その翌日も、男らしい男性と双眼鏡越しに目が合った……。
双眼鏡で覗いているから表情まで見えてしまう。
今日もその人は、私に向かって眩しすぎる笑顔を見せた……気がした。
「それにしても、目が合いすぎるわ。他の人は気づきもしないのに……。不審人物として警戒されてしまったのかしら?」
私の中では、レザール様は乙女ゲームの年下枠でしかなかった。
ゲームの登場人物が成長するという概念が、私にはなかった。
そのことが、まさかあんな急展開を招くなんて……。このときの私は、まだ知らない。
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毎日、レザール様のお姿を探していたけれど、結局見つけることが出来ないまま、一週間が過ぎた。
しびれを切らした私は、もしかしたらお会いできるかもしれないという期待を胸に、街に出かけることにした。
そんな私の目の前に現れたのは、レザール様と同じ色合いの超絶美男子だった。
「…………お久しぶりですね。フィアーナ様」
「あ、あの。こんな美形の知り合いは、存じ上げないのですが……」
「何を言っているんですか。お姉様、レザールですよ?」
「えっ……。えぇ!?」
掴まれた手首。ゴツゴツした指先は、すっかり大人の男性のものだ。
高くて可愛らしかった声も、低くて耳の奥がしびれそうな声に変わっている。
「え? 可愛かったレザールきゅ……いいえ、レザール様が、こんなに男らしく?」
呆然としている私の、赤色の髪の毛を一房手にのせて、落とされる口づけ。
信じられない出来事に震えながら、私はその光景を見つめていた。