実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
***
急に吹いた強い風に、優しい思い出はかき消えてしまった。
寒さを感じて、そっと自分の肩を抱く。
こんな夜遅くに、外にいると、たった一人知らない世界で取り残されてしまったように感じる。
「――――レザールきゅん」
見上げれば、こぼれ落ちてきそうな満天の星空。
こんなにも美しい星をあの世界では見たことがない。
幸せだった時間、どんどん心の中で大きくなっていったのは、不思議なことに離れているはずのレザール様のことだったと、今さら気がつく。
思わず、魔術師団本部に向かって歩き出していた。
正門近くから建物を見れば、一室だけまだ明かりがついている。
その明かりが、不意に消えると、周囲は真っ暗になってしまった。
「……こんな遅くまで、働いている人がいたのね」
こんな時間まで誰かが起きていて、しかも働いていたという事実に、なぜか自分は一人ではなかったという安堵を感じて建物に背中を向ける。
「帰ろう」
急に眠気を感じて歩き出したとき、魔術師団本部の正門が少々軋みながら開いた。
そして、ここではない世界、そして過去、現在、いつだって聞きたくて仕方がなかった声がした。