実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
「フィアーナ?」
「…………レザールきゅん」
夜遅くまでパーティーに参加していたはずのレザール様は、夜中まで魔術師団本部で働いていたらしい。
働いてばかりのレザール様が心配になるけれど、それよりもただ会えたことがうれしくて……。
この気持ちに、そろそろ推し以外の名前をつけてあげなくてはいけないのかもしれない。
「どうしてこんな夜中に? 一人で出歩くなんて危険だ」
「…………ごめんなさい。でも、ちゃんと防犯アイテムは持ち歩いて……」
その言葉を最後まで伝えることは許されず、無言のままのレザール様に抱きしめられる。
それはまるで、この世界に私は一人ではないって、教えてくれるみたいだった。
「――――レザール様こそ、働き過ぎではないですか? そんなに忙しいなら、無理にパーティーに出なくてもよかったのに……」
「フィアーナを一人にしたら、きっとたくさんの人たちに囲まれて、俺のことなんか忘れてしまう」
まるで、子どもみたいに告げられた言葉と、苦しいほど強い腕の力。
(レザール様のことを私が忘れる?)
乙女ゲームで初めて出会ったときから好きだった。
違う世界で迎えた最期の瞬間だって、なぜか思ったのはレザール様のことだった。
王太子とのお茶会だって、密かに待ってたのは……。
(リーフ辺境伯領で暮らした日々は、とても穏やかで幸せだったけれど、いつだって会いたかったのは)
そっとたくましい背中に腕を回す。
こんな距離に近づけることをいつだって夢見ていた。