実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

 変わってしまったレザール様に、戸惑いを隠せない私。
 戦いに明け暮れている、という時点で、かつての可愛らしく庇護欲をそそるレザール様とは違うって、気がつくべきだったのだろうか。

「リーフ辺境伯が、もしもあなたに無体を働くような人間なら、追い落としてしまおうと思っていたのですが……。仁義に厚く、あなたに指先一つ触れなかったそうですね?」
「え!? 何でそのことを……」
「……魔術師団長に上り詰めたのは、全てあなたを取り戻すためですから」

 無邪気だった微笑みは、今は少しだけ暗く淀んでいる気がする。
 ジリジリと下がろうとするのに、同じだけ距離を詰めてくるせいで、私は壁際に追い詰められていた。

(あ……。あれ? 周囲に通行人がいないわね?)

 気がつけば、普段人があふれているメインストリートのはずなのに、不自然なほど人がいない。
 まるで、王都に私たち二人だけが取り残されたみたいだ……。

「さて、毎日誰を捜していたのですか? あなたが興味を持っている男性を、俺は……」
「ひっ! あの! レザール様を捜していました!!」
「え……? どうして」

 驚きに見開かれた、薄い色彩の瞳。
 どうして、そんなに驚いているのか、と状況も忘れて私は首を傾げる。

「だって……。ずっと好きでしたもの」
「は…………? えっ!?」

 壁に私を追い詰めて、壁ドン未遂だったレザール様の頬が真っ赤に染まり、それを腕で隠している。
 その姿は、私の知っているレザール様そのものだった。

「そう、ずっと好きでした(推しとして)」
「え……? 本当に」

 次の瞬間、私は強く抱きしめられていた。
 抱きしめた手を離した後も、赤い顔と潤んだ瞳で私を見つめるレザール様は、可愛らしい。
 そのことで私は大満足だった。
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