二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「あの話?」

 涼は、自分の嫉妬心をどうにか抑え込みながら、拓人に尋ねる。

「兄貴。このリビングを見て何か気づいたことはない?」
「なぞなぞに付き合う気はない。端的に要件だけ言ってくれ」

 要領を得ない拓人の言い回しに、涼はイライラし始めた。それに気づいた拓人は、ニヤリと微笑みながらこう返した。

「香澄なら、このなぞなぞを楽しんで解くわよ」

 涼にとって、香澄の名前はもはや弱点のようなものになっていた。
 涼は、大きなため息をつきながら、言われた通りに部屋を観察した。
 一般的な家庭の、一般的なリビングルーム。
 おしゃれさよりも、生活のしやすさを重視した空間。
 家具も、統一感よりは、機能性や好みを重視して買ったのだろう。テイストが皆バラバラだった。

(あれ……?)

 涼は、まず1つ、大きな違和感にすぐ気づくことができた。
 かかっているカレンダーは、今より数年前から変わっていない。
 それからもう1つ。
 リビングのローテーブルに置かれている雑誌も、数年前のものから変わっていない。
 わざわざ数年前のものを好んで置く人も、いなくはない。
 だが、置かれている雑誌は香澄のような20代女性が読むものではなく、どちらかといえば年配の女性が読む生活雑誌だった。脳トレの文字がはっきりと表紙に書かれてる。
 ここまで涼は考えて気づいた。
 このリビングには、今の香澄に通じるようなものは何1つ置かれていない。
 それどころか、このリビングルームだけ、タイムスリップをしたかのように時が止まっている感覚すら、涼は覚えた。
 そのことを、拓人に言うと

「まあ、それくらいは普通気づくわね」

 と少し悔しがった声を拓人は出した。
 それから、続けてこうも言った。
 
「香澄の今は、香澄のお祖母様が亡くなった時からほとんど進んでいないのよ。そして、それを香澄本人が望んでる」

 涼は、拓人が言っている意味が、掴みきれなかった。
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