二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「これは……一体……」

 そこはきっとこの家で最も狭いであろう、フローリングの部屋。
 涼が見たところ、壁中には、いっぱいに本が詰まった本棚が所狭しと並んでいる。
 たった1箇所だけ除いて。

「本棚が、倒れている……?」

 涼は、また一歩踏み出すと足元に転がっていた何かにぶつかった。

「これは……ぬいぐるみ……?」

 大人の男性の涼であれば、手のひらサイズにすっぽり収まってしまうほどの小さなくまのぬいぐるみが落ちている。
 さらに涼は、その近くに数多くの薄い絵本が散らばっていることにも気づいた。
 本棚に並べられている他の本は、ビジネス書や哲学書などばかりだというのに。
 涼は、その部屋の主が誰か、わかった気がした。

「香澄の父親の部屋か……」

 ずっと閉ざされていたのだろうか。
 少し歩くだけで、埃の足跡がついた。
 何故、こんなにも掃除をせず放っておいたのだろう。
 いつから、この部屋は掃除をしていないのだろう。
 そんなことを考えながら、涼がさらに中に足を踏み入れた、その時見つけてしまった。
倒された本棚の下に、大きなシミがあることを。

(これは……まさか血か……?)

 弁護士の仕事をしていると、事件現場の写真は数えきれない程見る。
 その写真に出てくる血痕と、ほぼ色が同じだった。
 涼は、そのシミを確認しようとしゃがもうとした。
 その瞬間だった。

「……おとうさん……?」

 小さく、か細く、今にも消えそうな涙声。
 涼が振り向くと、ぼろぼろと涙を流した香澄が扉の前で立ち尽くしていた。
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