二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
(はぁ……気持ちよかった……)

 シナリオライターと言う仕事は、家に籠っているからこそ肩こり腰痛が多い職業。それこそ、香澄のここ数年は特に、肩こりから解放された日はなかった。
 ところが、夜景を見ながらジャグジーを満喫したおかげで、溜まりに溜まっていた香澄の体のダメージは軽減していた。肩も腰も、驚くほど軽かった。

(こ、これが高級スイートの力……!?)

 しかも、香澄の体からは今、上品なフローラル系の香りがふわっと漂っている。バスルームに備え付けられていたシャンプーの香りなのは気づいていたが、お風呂上がりの自分の香りにうっとりすると言う経験は、人生20年以上生きてきて初めての経験だった。

 そんな香澄は今、全身を隈無く見ることができる鏡の前で悩んでいた。
 次、自分はどうするべきなのか、を。

(こ、これを着ろと……!?)

 香澄の服は、下着も含めて全て、この高級ホテルのランドリーに送られている。
 着られるものというのは、備品として置かれている白いタオル地で作られているバスローブのみ。
 海外ドラマで、お風呂上がりの美人女優がサッと着ている場面は見ているので、その使い方が正しいという知識はあった。だが、香澄は自分の容姿の程度は心得ていたので、いかに滑稽な姿になるか、想像に難くなかった。
 もし、香澄が1人で来たとしたら、バスローブのことなんかで決して悩むことはなかったろう。でも、今はそんな訳にはいかない。

 コンコン。

 考え込んでいる香澄の耳に、木製の扉が奏でる音が入ってくる。

「は、はい!?」
「大丈夫ですか?」

 香澄を悩ませる最大の原因が、声をかけてきた。

「だ、大丈夫です!」

 香澄は、相手に見えているわけでもないのに急いでタオルで身を隠しながら答えた。
 焦ったせいだろうが、声が裏返ってしまったのが、香澄は恥ずかしかった。

「何か不具合ないですか?」
「ないです!」

 香澄は、反射的に問題ないと答えてしまった。
 なかなか外に出て行きづらい理由を言うわけにいかなかったから。

「そうですか。準備ができましたので、落ち着いたらぜひこちらにお越しくださいね」
「は、はい!!」

 香澄は再び反射的に答えたが……。

(準備って……何の?)

 心当たりは一切なかったが、このスイートルームの本日の主に、これ以上気を遣わせるわけにはいかないと考えた香澄は、下着がわりにバスタオルを胸に巻きつけ、その上からバスローブを着ると言う荒技をすることに決めた。
 ただ……すっぴんで出る勇気はなかったので、しっかりと自分にできる限りのメイクは施した。
 こうして香澄は、風呂上がりにもかかわらず、メイクはバッチリ、だけど髪は濡れていて服はバスローブ姿という、チグハグな格好となってしまった。

「お、お待たせしました……」

 恐る恐るリビングにやってきた香澄は、真っ先にそれに目を奪われた。
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