二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「あ……あの……先輩が来るはずじゃ……」
香澄は混乱した。
自分を迎えにきてくれるのは、拓人だったはずだから。
正確に言えば、自分1人で帰ろうと考えていた香澄に
「明日、絶対1人で帰るんじゃないわよ!迎え行くから!でなければまたノート取り上げるからね!」
と拓人にメッセージで脅されたのが、つい昨日の夜のことなのだが。
ノートというのは、もちろんリュウのこと。
取り上げられるなんて真っ平ごめんだと香澄は思ったので、おとなしく病室で拓人を待っていたら、現れたのが涼だったのだ。
喫茶店でおしゃれなケーキを待っていたら、豪華なフランス料理がやってきた時の心境に、もしかしたら似ているのかもしれない。
「僕じゃ、嫌だったかな?」
涼は、手にしていた大きな花束を香澄に渡しながら、尋ねる。
「い、嫌と言うわけじゃ……」
「そう、それならよかった」
「は、はあ……」
香澄は、花束を恐る恐る受け取りながら、入院直前のことを考えた。
どれだけ思い出そうとしても、この病室で目を覚ました時より前のことを、香澄は思い出すことができないでいた。
香澄に残っている記憶は、部屋で横になり、うとうとしていたのが最後。
そのため、一体何が起きて、病院に運ばれる事態になったのか、香澄は全く理解できてなかったのだ。
1度、ノートを持ってきてくれた拓人に「私は何があったんですか?」と尋ねてもみた。けれど拓人は困ったように、でも綺麗に微笑みながら「私にはわからないわ」としか答えてはくれなかった。
そのため、答えを知っているのは目の前にいる綺麗すぎる人だけだと、香澄は分かっていた。
(聞くべき、だろうか?)
あの日、何があったのか。
でも、香澄の無意識が警告してもくる。
聞いてはいけない、と。
それを聞けば、全てが終わってしまうと、自分の声が脳内に語りかけてくる。
だから、香澄はごくりと飲み込むことにした。
私にあの日、何が起きたんですか?と言う、普通ならごく当たり前に聞けたはずの文章を。
その代わり、香澄は自分の顔よりずっと大きな花束に顔を埋めながらこう言った。
「お花、綺麗ですね」
目に見えるものをそのまま言葉にする方が、今の香澄にはずっと簡単だった。
「君に、贈りたいと思っていたんだ」
そう涼が言った花束と言うのは、かすみ草だけで作られたもの。
薔薇やひまわりなど、誰もが知ってる派手な花は1つも入っていない。
(自分は、この人の目にはこう見えているのか……?)
主役ではなく、常に脇役として存在し続ける、同じ音を持つかすみ草には、いつも親近感を持っていた。
でも、いつでも主役でいられる涼から贈られることについては、どこか虚しさを香澄は覚えた。
「そうですか……ありがとうございます……」
それから、少しの間無言が続いてから
「話は、車の中で聞くから」
と、涼は香澄の右手を取った。
その瞬間、香澄は驚いた。
涼の手が氷のように冷たく、そして震えていたから。
香澄は混乱した。
自分を迎えにきてくれるのは、拓人だったはずだから。
正確に言えば、自分1人で帰ろうと考えていた香澄に
「明日、絶対1人で帰るんじゃないわよ!迎え行くから!でなければまたノート取り上げるからね!」
と拓人にメッセージで脅されたのが、つい昨日の夜のことなのだが。
ノートというのは、もちろんリュウのこと。
取り上げられるなんて真っ平ごめんだと香澄は思ったので、おとなしく病室で拓人を待っていたら、現れたのが涼だったのだ。
喫茶店でおしゃれなケーキを待っていたら、豪華なフランス料理がやってきた時の心境に、もしかしたら似ているのかもしれない。
「僕じゃ、嫌だったかな?」
涼は、手にしていた大きな花束を香澄に渡しながら、尋ねる。
「い、嫌と言うわけじゃ……」
「そう、それならよかった」
「は、はあ……」
香澄は、花束を恐る恐る受け取りながら、入院直前のことを考えた。
どれだけ思い出そうとしても、この病室で目を覚ました時より前のことを、香澄は思い出すことができないでいた。
香澄に残っている記憶は、部屋で横になり、うとうとしていたのが最後。
そのため、一体何が起きて、病院に運ばれる事態になったのか、香澄は全く理解できてなかったのだ。
1度、ノートを持ってきてくれた拓人に「私は何があったんですか?」と尋ねてもみた。けれど拓人は困ったように、でも綺麗に微笑みながら「私にはわからないわ」としか答えてはくれなかった。
そのため、答えを知っているのは目の前にいる綺麗すぎる人だけだと、香澄は分かっていた。
(聞くべき、だろうか?)
あの日、何があったのか。
でも、香澄の無意識が警告してもくる。
聞いてはいけない、と。
それを聞けば、全てが終わってしまうと、自分の声が脳内に語りかけてくる。
だから、香澄はごくりと飲み込むことにした。
私にあの日、何が起きたんですか?と言う、普通ならごく当たり前に聞けたはずの文章を。
その代わり、香澄は自分の顔よりずっと大きな花束に顔を埋めながらこう言った。
「お花、綺麗ですね」
目に見えるものをそのまま言葉にする方が、今の香澄にはずっと簡単だった。
「君に、贈りたいと思っていたんだ」
そう涼が言った花束と言うのは、かすみ草だけで作られたもの。
薔薇やひまわりなど、誰もが知ってる派手な花は1つも入っていない。
(自分は、この人の目にはこう見えているのか……?)
主役ではなく、常に脇役として存在し続ける、同じ音を持つかすみ草には、いつも親近感を持っていた。
でも、いつでも主役でいられる涼から贈られることについては、どこか虚しさを香澄は覚えた。
「そうですか……ありがとうございます……」
それから、少しの間無言が続いてから
「話は、車の中で聞くから」
と、涼は香澄の右手を取った。
その瞬間、香澄は驚いた。
涼の手が氷のように冷たく、そして震えていたから。