二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 香澄の家は、2年前に涼と香澄が結婚し、未来を産む前に完全にリフォームした。
 提案したのは、香澄の方だった。

「無理しなくて良いんだよ。僕は香澄と住めるならジャングルで野宿だってできるんだから」

 と、お付き合いハイ状態になっていた涼からは、歯が浮くセリフが連発された。

「無理は、していないんです。ただ、今の空間は私とお父さんとおばあちゃんの空間で、この子のための空間じゃないから……」

 いつの間にか、すっかり大きくなっていたお腹をさすりながら、香澄は答えた。
 そんな香澄の手に涼は自分の手を重ねる。

「そうだね。そしたら、一緒にこの家を作ろうか」
「でも、涼先生。もし先生が嫌なら……私この家売っても……」
「香澄、それは前にも言ったよね。僕は、君のためならなんでもできるって。君はこの家で暮らす事をまだ望んでいるはずだ」
「それは……」
「もちろん、別の家を買うのはありだよ。君が望むなら、高層マンションでもリゾート地の別荘でも買ってあげる。でもね。この家を売るのはなしだ」
「どうしてですか?」
「君が泣く姿が、目に浮かぶからね」

 図星だった。
 香澄は何度も考えては泣いたのだ。
 そして、涼はそれを知っていた。
 そのことに気づけるくらいには、涼と香澄は2人で一緒にいる時間が一気に増えたのだ。
 涼は早速、香澄の家のリフォームを発注し、その間は香澄と2人で出産までホテル暮らしをし続けた。
 その結果香澄の家は、家族の温度がどこにいても感じられる、温かみがある家へと生まれ変わった。
 そして、もう1つ大きく変わったのは、香澄の父と祖母の遺骨。
 香澄は未来を産み、2人の遺骨に未来を会わせてから、2人の遺骨をお墓へと納骨をした。
 そこは、いつか3人で一緒に入ろうと決めていた、見晴らしがいい墓地。
 資金こそ、最初は涼が出すと言ったが、香澄はそれは断った。

「これは、自分なりのけじめなんです。涼先生とこれから三次元で人生を歩けるように」

 そう言われてしまえば、涼は何も言えなかった。
 その代わり、自分と香澄の墓は自分がお金を出すと宣言したので、香澄はまたもやおかしくなって笑ってしまった。
 そうして、香澄の家は、涼と未来という、香澄にとって新しい三次元の家族のための場所として、生まれ変わることに成功したのだ。
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