二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 香澄は大学卒業してからすぐ、プロのシナリオライターとして在宅で仕事を始めた。
 きっかけは、生来の人見知りコミュ障のせいで、面接が必須の就職活動で全滅したこと。
 
 「どうにか人と対面せずにできる仕事はないだろうか」

 当時、香澄なりに本気で考えた結果、たどり着いたのが在宅のシナリオライターという道だった。
 未就学児の頃から三次元に生きる人と接するよりは、漫画や小説、映画やテレビなど平面の世界に没頭することが香澄は好きだった。
 そんな香澄が直近熱中していたのは、空き時間でさくっと楽しむことができる恋愛ゲームアプリ。
 作り込まれた世界観や、美麗すぎるキャラクターイラストや声を融合させた総合芸術と言っても過言ではないコンテンツの魅力の沼にハマってしまった。
 さらに言えば……大学は文学部を選ぶくらいには、香澄は文章を書くことが好きだった。
 これらのポテンシャルと、シナリオを実際に書く実技試験の結果を9割重視する採用試験というラッキー要素が組み合わさった結果、香澄はシナリオライターの職をゲットしただけではなく、なんと1年後には10代〜50代まで幅広く女性を虜にしている人気恋愛ゲームアプリのシナリオライターの1人に抜擢されるまでになった。
 捨てる神あれば拾う神がある、と香澄は心から今お世話になってる会社に感謝をした。
 だからこそ、自分にできることは全力で取り組もうと決意し、どんなセリフやシチュエーションなら女子がときめくのだろうかという研究を、業務時間外でも真剣に取り組んだ。
 その結果、仕事用のPCを中心に置いた、香澄の仕事用兼食事用でもあるこたつ机には、恋愛研究Vol.●●と香澄の文字で書かれた表紙のノートがたくさん散らばっていた。
 だから、香澄が書くシチュエーションやセリフは、ちゃんとプレイヤーの課金欲を醸成し、数字としても成果が出ていた。その事に香澄自身は満足していたし、このやり方で良いと思っていた。
 だって、成果が出ていたから。
 けれども、そんな空気が変わったのはほんの2ヶ月前。担当ディレクターが変わったからなのか、会社の方針なのかは香澄には分からなかったが、香澄が提出する原稿に対してこんなフィードバックが返ってくるようになった。

「リアリティーがなさすぎる」
「既存作品のパクリ」
「もっとオリジナリティーを出して」

 これだけなら、まだ対処法はあったのかもしれない。
 けれども、香澄を1番悩ませるのは

「過去の恋愛経験を活かせ」

 という文言だ。
 コミュ障、故に恋愛経験はもちろん皆無の香澄にとって、精神へのダメージが他の文言に比べて10倍以上の攻撃力を持っていた。
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