二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
3.初めての快感は予想外だらけ
 男性は、あの苺ジュース味のファーストキスの後にひょいと軽々と香澄の体を抱きかかえた。香澄が制止するのも聞かず。
 そして、ソファから香澄の視線にチラチラと入っていたベッドルームへと、真っ直ぐ歩いていった。
 たった数秒のお姫様抱っこで、一体自分はどれだけ心臓の音を鳴らしたのか……香澄は数える余裕すらなかった。

「重くなかったですか?」

 香澄は、真っ白な雪のようなシーツの上に自分を高い宝石扱うように大事に寝かせてくれる男性に尋ねた。
 ベッドのシーツと擦れあったせいで、バスローブがほんの少し緩まった。肌に直接触れたシーツの触感はまるで羽根のようだと、香澄は感じていた。

「どうして?」

 きょとんとした顔で、男性が聞く。
 香澄の体の上に覆いかぶさりながら。

「私、ダイエットは特にしてないので……それで」
「ああ、だから抱き心地が良いんだね」

 そう言うと、リョウは香澄の顔にかかった髪を指で払う。

「あ、あの……!私こういうの初めてで」
「うん、恋愛経験ないって、言ってたもんね」
「あ、そうですよね。だから……その……最初どうしていいか分からなくて、失礼があるかもですが……」

 香澄は、緊張のあまり饒舌になってしまう自分が嫌だった。
 もっと、こう言う時はこう言う時なりの、しっとりとした空気感があるものだと思っていたのに、自分のせいで台無しになっているような気がして、恥ずかしくなった。

(やっぱり、私にはまだ早かったんだろうか)

 香澄の頭の中で後悔がよぎった時だった。
 香澄の唇を、男性が人差し指で蓋をした。
 落ち着いて、と、男性の人差し指が温かさだけで伝えてきた。
 香澄が鼻で呼吸をすると、男性の体から例え用のないいい香りがした。
 好きな香りだと、思った。
 男性は、目元を細めるだけの微笑みを浮かべたので、香澄も釣られて微笑み返した。

「そう言えば、名前を聞いていませんでしたね」
「名前……ですか?」
「ええそうです。あなたを愛する時は、あなたの名前を呼びたい」

 どストレートにこの後の行為のことを言葉に出されて、香澄は顔から火が出そうになった。
 香澄は自分の名前があまり好きではなかった。
 母親が大好きなかすみ草から名付けれたと聞くが、実際は花どころか、霞んでいるというイメージの方が自分にはしっくりくると、香澄は思っていた。
 けれど、この時だけは思った。
 こんな綺麗な人に呼ばれたら、好きになれるかもしれない、と。

「香澄……です」
「香澄。可愛いね。君にぴったりの名前だ」
 
 低くて甘い声で呼ばれた自分の名前が、たった一瞬絵世界でたった1つの特別なものになった気がした。

「僕のことはリョウと呼んで」
「リョウ……さん?」
「違うよ。リョウだよ。香澄」
「…………リョウ」
「いい子だ香澄」
それが合図。
リョウはその瞬間、香澄のバスローブを一気に剥き、上半身を顕にした。
< 32 / 204 >

この作品をシェア

pagetop