二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「えー恋愛してみればいいじゃない、三次元で」
「かっ……簡単に言わないでください……!拓人先輩!」
「動揺しちゃって、かーわいいー」
「かっ……からかわないでください……!」
 
 香澄の頼れる先輩の八島拓人は、生物学上は男性だが、女性の心理を誰よりも理解している存在。
 そのためか、彼の手から紡がれるセリフやシチュエーションは、どれも大きな説得力がある。
 香澄は、そんな八島が紡ぐシチュエーションの全てに憧れている。
 いつか自分も八島のようなシナリオを書けるようになりたいと、矢島が担当したシーンだけの研究ノートを1冊作り勉強していた。
 だからこそ、八島のアドバイスは、基本的にはどんなものでも聞き入れたいと香澄は思っていた。
 けれども……。

「そもそも私みたいなコミュ障に恋なんて、素っ裸でボス戦挑むようなものじゃないですか!」
「そうは言うけど、香澄ちゃん。私とはちゃんと会話できてるじゃない。自分でコミュ障って、諦めてんじゃないの?」
「先輩は、話しやすいだけですからです!それに今は顔が見えないから……」
「あら、じゃあ今すぐ顔を見ながらお話する?」
「絶対無理です」
「困ったわねぇ……」

 スピーカー越しに八島がため息をつくのを聞きながら、香澄はまたやってしまったと頭を抱えた。
 誰かが自分のためにアドバイスしてくれたことでも、真っ向から否定する癖が香澄にはあり、そのせいで、これまで何人もの友人たちとの仲が悪くなったのだ。
 
「何よ、悩んでるって言うから力になろうとしたのに。香澄ちゃんなんてもう知らない」

 という捨て台詞を吐かれたことは1度や2度ではなかった。
 
「ごめんなさい……先輩……」

 急いで香澄が謝ると

「私は良いけれど……」

 と、ワンクッションを置いてから八島はこう言葉を続けた。

「ねえ香澄ちゃん。私、ディレクターさんが言うことは間違っていないと思うわ」
「どう言うことですか?」
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