二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 信号が変わり、芹沢涼によってアクセルが踏まれる。
 静かに車が走り出す。
 たったそれだけのことに、香澄は芹沢涼にとても気を使われていると感じて、恐縮した。
 芹沢涼の手が香澄のお腹から名残惜しそうに離れて、ハンドルへと戻されるのを眺めながら、香澄は必死に頭の中を整理し始める。

(私は、誰とでも、そういうことをしないと思ってる……ってこと?)

 それで言えば、香澄は否定はできない。
 もし同じことをもう1回しろと八島に言われたとしても

「無理です!今度こそ口から心臓出ます」

 と断固拒否したことだろう。
 だとしても、だ。
 香澄と芹沢涼はたった1度しか関係を持たないどころか、今日までお互いが何者か知らなかった。
 
(断定をするには、不確定要素が多いと思うけど……)

 にも関わらず、芹沢涼の言葉には確固たる自信が見える。

(気のせい……?)

「そんなに僕の顔を見て楽しいかい?」
「えっ!?」
「ずっと見てるから」
「す、すみません……」
「どうして謝るの?嬉しいのに」
「……へっ……?」

 芹沢涼は、横顔だけでも分かるくらい、にやりと口角を上げながら

「早く信号待ちにならないかな」

 と言った。

(い、意味が分からない……)

 とりあえず、気を紛らわせるために、と窓の外でも見ていようかと、意識を車外に向けた途端、香澄は気づいた。

(な、何でこの辺走ってるの……?)

 そこは、香澄の家から最も近い駅前近く。
 ほとんど家から出ることがない香澄だったが、気分転換をするためにカフェに来ることもある。
 まさに今、そのカフェの前を通り過ぎたところだった。
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