二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
「なっ、ななな……」
「ん?何でって、聞きたいの?」

 香澄は、全力で頭を振った。

「言ったよね。探したって」

 確かに、香澄はそう聞いた。
 けれど、正直まだ本気だとは香澄は思っていなかった。
 
「まあ、結局僕に突き止められたのは、君がこの駅をよく利用することくらいだったけど」

(だからどうして……!?)

 そう叫びたくても、体調不良と緊張もあり、うまく言葉にできない。

「ほら香澄、ダメだよ。ここから香澄にお願いがあるんだから」

(何だろう?)

 このタイミングで、再び信号待ちになった。
 ブレーキペダルに踏み替え、香澄に刺激を与えないように車を止めてすぐ、芹沢涼の手が香澄の頬を捉えて、かすみの顔を自分に向けさせた。
 2人の目がしっかりと近距離で合う。
 香澄は、早く目を逸らしたくて仕方がなかったが、顔はしっかりと芹沢涼の手によって固定されていたので、為すすべもなかった。
 芹沢涼は、にっこりと微笑見ながらこう言った。

「僕を、香澄の家に連れて行って」
「……はい?」

(う、嘘だと言って……)

 芹沢涼の言葉に対し、どう答えるべきか考えあぐねているその時だった。
 電話の着信が鳴った。

(嫌な予感がする)

「すみません、電話失礼します」
「どうぞ」

 急いでスマホを確認すると、予想外の発信元だった。
 無意識に

「えっ!?」

 驚きの声が漏れた。

「どうした?」
「あ……そのぉ……」

 どうしてこのタイミングで、この人から連絡があるのか分からない。
 でも、滅多に電話はかけてくることのない人だったので、急ぎの用事かと思ったので慌てて通話ボタンを押した。

「も、もしもし……先輩?」

 電話の相手は八島拓人だった。

「ちょっとー!香澄ー!!」
「えっ!?」

(物凄く焦ってる……?)

 明らかに八島の声色から、只事じゃない何かが起きたであろうことだけは分かった。
 だが、少なくとも香澄に心当たりはなかった。今のところ、は。

「ど、どうしたんですか先輩!?」
「どうもこうもないわよ!」
「え?」
「今すぐあなたの電話、スピーカーモードにしなさい!!」
「ええ!?」
「早く!」
「何でですか!?」

 私が混乱していると、横からスッと芹沢涼の手が伸びてきた。
 男の人の割には細くて綺麗な人差し指が、香澄のスマホをスピーカーモードにするのを眺めることしか香澄はできなかった。
 あまりにも芹沢涼の所作が、綺麗すぎたから。

「これでいいのかな?」
「あの……」

 どうして、芹沢涼がそんなことをしたのか。
 その答えのヒントは、この後八島の口によって飛び出した。

「このバカ兄貴!!うちの香澄を誘拐してんじゃないわよ!!!」

(……何ですと?)
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