二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
 香澄は、一瞬聞き間違いかと思った。
 自分が尊敬し、唯一心を開くことができるのが八島だ。
 そんな八島が今、電話口で声を荒げている。

「誘拐だなんて人聞き悪い。香澄を迎えに行っただけ」
「バカ言うんじゃないわよ!なーにが……迎えに行っただけ、よ!」

 八島が途中、芹沢涼のモノマネを挟んできた。
 確かに声は似ている。

「探偵使って、香澄のお母さんの離婚話聞きつけるなんて!今時ストーカーでもそんなことしないわ!」
「た、探偵!?」

 2人の会話を黙って聞いているはずが、突如出てきたパワーワードに香澄の口からは驚きの声が出てしまった。

「そうよ、香澄。そこにいるのは、顔と見栄えと外面だけが良い、中身は恐ろしいモンスターなのよぉ!!」

(先輩、重ね言葉にめちゃくちゃ厳しいのに……)

 顔も見栄えも外面も、たぶんどれか1つ、もしくは2つ使えばおよそのキャラクターの特徴は掴める。
 そんな初歩的なミスを、あの八島がするなんて……。

「モンスターだなんて失礼だな。たっくん」

(たっ、たっくん!?)

「きー!!やめて!あんたにその呼び名言われる時はろくな事にならないのよ!あんたが香澄の事を聞いてきた時だってその呼び方してきて……」
「先輩どういうことですか!?」
「どうもこうもないわよー!もう、ほんっとごめんね!あなたからリョウって名前がでた時、うちのバカ兄と同じ名前のまともな男がいるのかと思ったけど」

(ま、まともな男って……)

「ううん。我が兄は、さすがに、そこまではしないって信じたかったかもしれない」

(そこまで……?一体この人、何をしたの……?)

 その時、再び車が走り出した。

「じゃあ、香澄の家に行くから案内して」
「えっ!?」

(その話、まだ続いてたんですか!?)

「やめなさい香澄!その男を家に入れたらあなた、食われるわよ!?」

 食われるの意味がセックスをするということであれば、今更なのは1番先輩が分かっているじゃないか……と香澄は言いそうになって、言葉を飲み込んだ。
 その代わりに
 
「それは無理かな」

 と、芹沢涼の否定が入った。

「どういう事?うちの香澄じゃ、あんたの食指が動かないとでも言うの!?」

(先輩!それ論点違う!)

「香澄のお腹にはもう僕の子供がいるからね」
「…………何だって?」

 八島の声のトーンが、ぐぐっと下がった。

「まだ安定期に入ってないから、香澄を抱くのはもう少し後じゃないとダメみたいなんだ。ね、香澄」

(私になぜ聞く……!?)

「あ、あのですね……先輩?実は……」

(あれだけ心配されてたのに、本当に妊娠しちゃってましたなんて……恥ずかしくて言えやしない)

「待ってなさい……香澄……」
「え?」
「今すぐ!その男にドン・●ホー●の駐車場に車停めさせて、1階のカフェに連れ込みなさい!!!10分でそっちに行くわ!」
「連れ込むも何も、僕もこの会話聞いてるんだけど」
「おだまりなさい!この獣!!今すぐ私が…………成敗してくれるわ!!逃げたら承知しないから覚悟しなさいよ!!!」

 そう言うなり、八島との通話は一方的に切れた。
 香澄はここで2つの疑問を抱いた。
 1つは、何故1階にカフェがあるドン・●ホー●の事を知っているのか。
 そしてもう1つは……。

(10分で来るって、言わなかったか?)
< 75 / 204 >

この作品をシェア

pagetop