二次元の外には、予想外すぎる甘々懐妊が待っていました
(何、このホテルのような廊下……)

 ゴミひとつなく、額縁に入れられた絵画が飾られている廊下に、香澄は目を丸くした。

(本当に、ここはどこ……?)

 不安に思いながら、八島らしき声がした方を探そうと香澄は周囲を見渡そうとしたが

「だから僕は香澄と結婚するよ」

(へっ!?)

 探す暇もなく、次の声が香澄の耳に入った。
 香澄が立っている場所の右側から。

(この声は、芹沢先生……?)

 言葉の意味を考える前に、まず自分の状況をしっかり確認しなくては。
 そう思いながら、香澄は声がした方に向かって歩き始めた。 
 まだ目眩がほんの少し残っていたので、壁に手をつきながら。
 自分の手垢で、汚れ1つないオフホワイトの壁が汚れてしまうのではないかと申し訳なく思った香澄は

(後で掃除させてもらおう)

 ということを考えながら、次の部屋に続く扉に手をかけた時に

「ふざけんじゃないわよ!あんたのような性悪遊び人に、うちの香澄を嫁に出すわけないじゃない」

(私の名前……?ということはやっぱり先輩と……)

「僕のどこが性悪遊び人だって?」
「どの口が言うの?毎晩女を取っ替え引っ替えしながらホテルで遊びまくる男を、性悪男と呼ばずに何と呼べばいいのかしら?」
「ホテルで女性同伴をしているからと言って、すぐにそう言う方向に考えを持っていくのは早計だと思うけど?証拠不十分で十分不起訴になる事案だ」

 どうやら、この扉の向こうにいるのは、先輩と芹沢涼で間違いなさそうだ、と香澄は思った。
 扉に手をかけたまま、香澄はフリーズしていた。

(しまった、次どうするか考えてなかった……)

 知らない空間にいるのが不安で、咄嗟に知っている何かを求めた。
 その瞬間、八島の声が聞こえたから、その声の方に行けば安心できるかと思った。
 でも……。

「大体あんた!クリスマスイブの日はクライアントの令嬢と見合いだったんじゃないの!?」

(あの人、お見合い相手だったんだ……)

 香澄は、自分にお酒をぶっかけてくれた美女と、その前後に交わされた会話を思い出して、複雑な気持ちになった。
 もちろん、芹沢涼の「勃たない」発言も。

「それが、何がどうして、香澄をあのホテルで手篭めにしたわけ!?あんたには絶対に香澄の居場所がバレないように手を尽くしたはずなのに!?」

(……ん?)

 香澄は、八島の発言に1つ大きな矛盾があることに気づいた。
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