90日のシンデレラ

1*真紘、本社へいく

「あー、椎名さん、ちょっと待って!」
 双子の娘の父親である主任が、退勤しようとする真紘を呼び止めた。

 本日は金曜日。地方の小さな小さな会社である真紘の勤務先は、週休二日制ではない。このご時世に有り得ない休日制度であるが、地方では未だに健在であったりする。
 週休二日制でないとなると土曜日は隔週で出勤となるのだが、明日は出勤日でないほうの土曜であった。
 つまり今日は、月に二回しかない明日のことを考えなくてもいい楽しい金曜である。

 一週間の労働を終え、浮き浮きで社を出ようとする真紘だったが、上司の”待った!”に従った。
 退社の足の向きを変えて主任のデスクへいけば、彼から薄くない(・・・・)ファイルをもらう。
 表には『第5回新人研修案内』とある。

(新人研修?)
(いまさら?)
(しかも、本社?)

 真紘は入社して五年目だ。新人ではない。かといって、中堅どころでもないのだけれど。
 不景気のおかげで真紘からあとの新入社員は、この部に配属されていない。見方によっては、部で一番年齢の若い社員の真紘は、未だに”新入社員”のままであるともいえる。

「その研修、系列会社全部が対象のものなんだ。全国の子会社代表を東京本社に一度に集めて行うのはいろいろ無理があるらしくって、四、五年に分けて開催しているらしい。うちは系列に入って日が浅いし、孫会社だから対象から外されているのかと思ったんだけれど、ついに今年、お呼びがかかった」
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