90日のシンデレラ
 金色、銀色に輝く光柱は、超高層ビル群のもの。真紘と北峰は、ヒルズ地区に入っていた。
 ヒルズとはよくいったもので、ビルはもう光の粒でできた細長い水晶だ。それらがランダムに建ち並び、輝く丘を形成する。その丘は、ひとつだけでない。いくつも連なって、ずっとずっと先まで広がっている。
 もう古い道路灯の安っぽいオレンジ色の光は消えていた。ビルや看板の照明のほうが圧倒的に強ければ、クーペは(まばゆ)い光の洪水の中にいた。

 「……きれい」

 無意識のうちに手がブランケットを握りしめていた。目は光の丘陵に、丘陵の先に釘付けだ。
 高い低い、細い太い、尖ったり曲面だったりと、高層ビルは思い思いの形で天に向かって伸びている。自分が小人となって、宝石でいっぱいの宝箱の中から空を見上げているような気分だった。

 光の町の中を、高速道路が延びている。その路面からの光景は、とびきりのアトラクションだ!
 遠くの光はゆっくり動くが、すぐそばの高速道路際のビル群のものは、ものすごい勢いで通り過ぎていく。
 流れるシャンパン色の光の中に、ブルーライトで飾られたツリーを見つける。十二月なら間違いなくクリスマスツリーに変身するだろう。
 どこか惹かれるものがあって、もっとよくそのツリーがみたいと真紘はシートベルト越しに身を捩じる。後方に移動していくブルーツリーを目で追うも、あっという間に光るビルの向こう側に隠れてしまった。

 「あ、きえちゃった」

 小さなつぶやきだったのに、真紘のつぶやきを北峰の耳はしっかり拾っていた。

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